前田美波里「恥をかくことを恐れない」一生、成熟と未熟のはざまで
最後までやり遂げられればそれでいい
「ある程度泳げるようになってから、マスターズの大会に出ることになったんです。スタートでは、飛び込みをしてもしなくてもどちらでもよかったのですが、せっかくだからと、1回だけ、横浜の大きなプールまで、飛び込みのやり方を教わりに行きました」 小さい頃、鎌倉で育った美波里さん。よく海岸の岩の上から、ビャンって海に飛び込んでいたので、飛び込むこと自体は怖くなかった。 「しかも、そのときは、案外うまくできちゃって(笑)。どちらかというと、上がってくるほうが大変でした。深いところまで沈まないように、水の中ですぐ手を前に出すやり方を習ったものの、それは一朝一夕にはマスターできそうになかった。それで、プールの手すりに捕まってスタートするやり方で、大会に出場することにしたんです。でも、当日になったら周りの人たちがみんな飛び込み台から飛び降りるので、私も結局飛び込んじゃった。だって、大会に出るのなんて、これが最後かもしれないでしょう? 『舞台のように、お金をいただいているわけでもないから、やり遂げられればそれでいいんだ! 』と開き直って(笑)」 結果は2位だった。年代と種目ごとに分かれている大会で、美波里さんの出場したレースの出場者は2名。2名中の2位なので、実質ビリとも言えるが、美波里さんの顔は晴れやかだ。 「飛び込みをしてから浮かんでくる間ってすごく苦しいんですが、そこでバタフライの動き以外のことをすると失格になってしまう。私も、本当のことを言うと、ちょっとだけ平泳ぎをしそうになったんです。でも、そこは頑張って堪えたので、失格にならなかっただけで十分です。水泳なら、90歳でも100歳でも続けている人はいらっしゃいますし、次の大会ではもっと上手く泳げたらいいなと思います」 インタビュー後編では、6月末に出演が控えているリーディングドラマ「西の魔女が死んだ」のお話から、舞台への思いを伺った。 プロフィール 神奈川県鎌倉市出身。文化学院在学中の1964年にミュージカルデビュー。18歳のとき資生堂のサマー化粧品「太陽に愛されよう」キャンペーンガールとなり人気を博す。劇団四季や東宝主催のミュージカルに多数出演。6月25日~27日 青山草月ホールにてリーディングドラマ「西の魔女が死んだ」に出演。詳細はhttps://ml-geki.com/nishinomajo2024/ 秋田公演もあり。
菊地 陽子(ライター)