トランプの米朝会談「行き当たりばったり」外交か「ビッグディール」実現か
米国民「何を期待すればいいか分からない」
「非核化と体制保証」が大きな議題となる米朝首脳会談だが、トランプ政権は「最高のディール」を勝ち取ることへの期待と、「最悪のシナリオ」に直面した際の対応の両方を視野に入れておく必要がある。 北朝鮮が非核化の要求を受け入れたとしても、実際にどれだけの核弾頭が国内に存在するか明らかになっていない状態で、「完全な非核化」は現実的には難しいとの声は少なくない。また、核問題が非常に大きなテーマになったことで、北朝鮮国内の人権侵害といった問題が少なくともすぐには改善されない公算が強まった。中長期的に考えると、歴代の米政権が掲げてきた「価値観外交」から逸脱しており、トランプ政権自体の外交戦略が見えてこない怖さが際立つ。 トランプ大統領は自らを交渉の達人と呼ぶが、これまでの外交でみると真逆の印象が強い。TPP(環太平洋経済連携協定)、パリ協定(地球温暖化対策の国際枠組み)、イラン核合意からの離脱では関係国を大きく動揺させてきた。これらの離脱では具体的な代替案が示されたわけでもなく、トランプ大統領は現状、外交面では「離脱の達人」だ。 6月8日と9日にカナダで行われたG7サミットでは、関税をめぐってアメリカと他の先進国が激しく対立。サミットは保護主義への反対と北朝鮮の非核化を求める合意文書がまとめられたが、その直後にトランプ大統領は合意文書を承認しないとツイート。通商問題でカナダのトルドー首相を「弱虫」とツイートし、トランプ政権のナバーロ通商会議委員長にいたっては、テレビの報道番組の中で、トルドー首相に対して「地獄におちるべき」とまで発言している。トランプ大統領は、国際社会から総顰蹙(ひんしゅく)を買った直後にシンガポール入りした。数十年というスパンで米大統領との会談に向けて準備してきたとされる北朝鮮に対し、これまで「行き当たりばったり外交」が目立ってきたトランプ政権はどのようなカードが切れるのだろうか。 アメリカでは今秋に中間選挙が行われる。外交で少しでもポイントを稼いでおきたいというトランプ大統領だが、思惑通りの結果になるかは不透明だ。NBCニュースとウォールストリート・ジャーナル紙は11日、米朝首脳会談に関する世論調査結果を発表したが、実に3割を超えるアメリカ人が「米朝首脳会談で何を期待すればいいのか分からない」と答えている。アメリカの有権者にさえ、明確な意義やビジョンが示されていない米朝首脳会談。ディール好きのトランプ大統領が選んだのは、リスクの方が大きいギャンブルかもしれないが、どのような結果になるのだろうか。
-------------------------------- ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト