イエメン、「幸福のアラビア」いつの日か(4) ~「忘れられない戦争」~
死なない程度に首を絞められ続ける国
訪れることが叶わなかったイエメン北西部では、サウジがフーシ派の支配地域に対し空爆を行い、数多くの犠牲者が出ている。スクールバス、病院、結婚式、葬式などにまで爆弾が落とされることがあるという。ジブチの難民キャンプで取材したイエメン人家族は、娘の結婚式の最中に爆弾が落とされ、娘をはじめ、親族14人が殺されたため、イエメン北西部を後にしたという。 一方でフーシ派の戦闘員は、サウジ側にミサイルで越境攻撃をしかけ、暫定政府軍や独立派とも戦闘を繰り広げている。戦闘員不足を若者や子どもを徴兵することでまかなうこともあるようだ。ヨルダンで取材したイエメン人女性は、子どもの徴兵が相次ぐ中、息子の身を案じて逃れてきていた。「イエメンが平和になり、息子が安全に暮らせる環境になったら戻りたい」と言っていた。 また、国内に製造工場があるにもかかわらず、町にはサウジやUAEからの輸入品があふれ、イエメン市民はそれらに頼らざるを得ないという話も聞いた。それら輸入品の関税収入がフーシ派の上層部を潤す一方で、高騰した物価が市民の生活を圧迫し、貧しい人々は店頭に食べ物が並んでいるにもかかわらず、それを口にすることができない。 国連や国際NGOなどが行う食糧支援の多くもフーシ派により抜き取られ、国内に点在するブラックマーケットに流れていくという。結果、本当に支援が必要な人々に、物資は十分届かない。大規模な支援は中抜きされてしまうので、現地の協力者とパートナーシップ関係を結び、個人レベルの小規模支援で、貧困に直面している人々を継続的に支援していくことが求められている。 サウジやUAEはイエメン中に自国製品を浸透させることで経済を支配し、それらにより発生する利益の一部がフーシ派上層部の懐に入る「Win-Win」の構造ができているように見える。国連すらもその構造下に組み込まれているのかもしれない。 一見すると絶対的に対立しているように見えるサウジとフーシ派も水面下では手を組み金儲けをしているのではないだろうか。戦争は特定の集団にとっては儲かるビジネスなのだ。イエメン国内で見聞きした様々な矛盾からそんな考えを持ってしまう。 イエメンは「中東の最貧国」と呼ばれている。 一般的には、石油を始めとした天然資源に乏しく、海外からの輸入に頼らざるを得えなく、国内産業が乏しい貧しい国と認識されているためだ。 しかし実際には、豊富な石油資源があり、地下水脈もあり、北西部には肥沃な土壌が広がっているという。首都サナアの旧市街や古都シバームを始めとした世界遺産、広大な砂漠や緑豊かな棚田など美しい大地の造形や自然も多く、観光資源は豊富だ。本来は豊かな国になる可能性を秘めているのだと思う。 それでは、一体何がこの国を「中東の最貧国」に追いやってしまっているのだろうか。 過去から現在に至るまで腐敗し続けてきた国内政治。フーシ派や暫定政府、独立派など国内のあらゆる勢力同士の対立。サウジ、UAE、イランなどの周辺大国による執拗なまでの介入。そして、西欧諸国によるイエメン周辺大国に対する武器販売を始めとした軍事支援。 こうした様々な要素が複雑に絡みあい、イエメンを荒廃させ続けているように思う。もはやこの戦争は内戦ではなく代理戦争であり、イエメンは大国が国内勢力を使って競い合って遊ぶボードゲームの盤でしかないように見える。 豊かな国になる可能性を秘めていながら、国内勢力や周辺諸国の利権争いの舞台になり、荒廃が続くイエメンの姿を通して、「死なない程度に首を絞められ続ける国」という表現が頭の中にふと浮かんだ。