”闇バイト”から繰り広げられるドラマ『3000万』、罪を犯す善人たちの葛藤と弱さ
闇バイトに手を出す人間の背景
そして、毎回裕子は何かアクションを起こす前にはかなり葛藤しているが、その様子を見ていると「自分が裕子と同じ状況に立った時に善人でいられるのか?」と突きつけられた気持ちになる。人の善悪は生まれ持った要因もあるかもしれないが、環境や状況によっても大きく左右される。そんな人間の弱さを丁寧に描いているところも本作の面白さの一つだ。 ちなみに、選択肢を間違え続けている登場人物は裕子だけではない。2話の蒲池が長田との会話シーンで、長田が闇バイトに手を出した理由として「金ですよ。みんなそうでしょ?」と話し、それに蓮池は「俺も年の割にはいろいろ経験してきてるほうだけどよ、この仕事はやべえよ」「このままだと、ろくなことになんねえ」と返す。 大学生の長田は高時給バイトくらいの軽いノリで始めてしまった雰囲気ではあるが、奨学金返済や一向に上がらない実質賃金に不安になったことが背景にあるのかもしれない。一方、これまで数々の悪さをしてきた蒲池も「この仕事はやべえよ」と口にしていたが、裏を返せばヤバい仕事をしなければお金を稼げない現状が伺える。蒲池には自業自得と思える部分もあるが、この2人も困窮しているがゆえに選択を間違ったように思う。 犯罪者を擁護するつもりは絶対ない。それでも、“闇バイト”という言葉を頻繁に耳にするようなった昨今、長田や蒲池のような事情を持つ人間が闇バイトに関与しているのかもしれない。そう考えるといかに貧困が人を誤った道へと誘い、善人と暮らしている人の生活を脅かすのかが嫌というほど突きつけられる。 『3000万』で描かれている光景は、決して対岸の火事ではなく今私達の生活の中で確実に起きていることなのだろう。面白おかしさだけではなく、リアルを突きつけるストーリーに今後も目が離せない。
望月 悠木