”闇バイト”から繰り広げられるドラマ『3000万』、罪を犯す善人たちの葛藤と弱さ
秋ドラマが放送されて1か月が経過しようとしているが、中でも1番スリリングなドラマは『3000万』(NHK系、土曜22時~)である。本作はコールセンターの派遣社員として働く佐々木祐子(安達祐実)が主人公。夫の義光(青木崇高)はミュージシャンとしてメジャーデビューした過去を引きずり、ちゃんと働こうとしない。カツカツな生活を送る佐々木一家はある日、強盗事件で得た3000万円をバイクで持ち逃げしようとしたソラ(森田想)と接触事故を起こす。このことがキッカケで裕子は3000万円を手にすることになり生活が一変していく、という内容。 【写真】安達祐実主演ドラマ『3000万』、場面カット【5点】 『3000万』にポップさはほぼない。高齢者が闇バイトで雇われた強盗集団に襲われたりなど、血生臭い暴力シーンも少なくなく、重苦しい空気が終始立ち込めている。同じ放送枠で以前放送していた『Shrink~精神科医ヨワイ~』の主人公・弱井幸之助(中村倫也)の優しい笑顔を思い出し、メンタルのバランスを取ってしまうこともしばしば。重厚なサスペンスドラマではあるが、ついつい面白おかしさを覚え、それはストーリーが進めば進むほど雪だるま式に高まっていく。その理由として、裕子たちがあまりに悪い方向に進んでいってしまうことが挙げられる。 1話では、3000万円を拾って一度は警察に渡そうとするも断念。3000万円を手に入れた現場に戻って3000万円を入れたカバンを捨てようとするが、強盗事件の実行犯である闇バイトで雇われた蒲池(加治将樹)と長田(萩原護)に見つかって顔がバレる。 2話では、警察の監視下に置かれている入院中のソラの逃走を手伝う。病院から逃げ出す裕子とソラは蒲池に見つかり、蒲池から暴行を受けるも結果的には湖に突き落とす。 3話では、しばらく家でソラを匿うことになり、ソラにコキ使われる。しまいにはソラは3000万円のカバンを持って裕子のもとを去ってしまう。最初に警察に3000万円を返しておけば良かったものの、今では警察だけではなく反社会的勢力から狙われることになった。あまりに選択肢を間違えるその様はおかしく、サスペンスドラマと言うよりもはや喜劇である。 ただ、裕子たちを“ただバカ”とは思わせないのが本作のすごいところ。裕子が悪人であれば最初から3000万円をゲットして、あとはしらばっくれれば良かった。ただ、裕子の根っこは善人だ。より詳しく言うと“困窮している善人”である。もし経済的余裕があれば3000万円はすぐに返していただろう。 しかし、困窮している善人であるため、いかに違法な手段で手に入れたお金だったとしても、ポンと大金が目の前に出されれば悪人がする選択をとるのも納得できる。なにより、「これまで大きな悪いことをしてなかったであろう人が悪いことをすれば、選択肢を間違え続けるのも無理もない」思わせるストーリーの説得力は見事。