なぜタイに? ホンダは自動車生産方式に“革命”をもたらすか
ホンダはもしかしたら革新的な生産システムを生み出したのかもしれない。4月21日、ホンダはタイのホンダオートモービルカンパニー・リミテッド(HATC)に、自動車生産用としてはこれまでにない、新しい生産ラインを導入したと発表した。ARC(Assembly Revolution Cell)ライン、通称アークラインと呼ばれるこの生産ラインは、「セル生産方式」を効率面で改善したものだ。 【写真】メガサプライヤー時代(上) 自動車メーカーは部品を組み立てているだけ?
従来のベルトコンベアによる「流れ作業方式」
自動車の生産は1908年にフォードによって「流れ作業方式」(ライン生産方式)が発明されて以降、基本的にはベルトコンベアに乗ったシャシーが作業者の間を流れて行き、作業者の前を通過中に作業者別に細分化・単純化された部品組み付けを行って、効率良く製品が生み出されて行く仕組みだ。ポイントは細分化と単純化で、単純作業化によって作業者の練度が求められなくなり、作業が早くなり、ミスが少なくなった。 ライン生産方式は、基本的に中央集権的な管理方式であり、各工程は専門の生産管理者の管理を受け、服従していくことで効率を上げる。チャーリー・チャップリンの『モダン・タイムス』が批判したのはこのシステムに非人間的な部分があったからだ。さはありながら、自動車の量産という概念ができ、モノ作り、ひいては人類の生産性が飛躍的に高まったのはこのフォードの生産システムのおかげである。 現在の自動車生産も基本は同じだ。部品点数が増えて複雑になった結果、ユニット単位で枝から幹に合流したり、機械化や自動化(つまりは省人化)が進められて来た。あるいは「トヨタ生産方式」の様に、ライン生産方式の要である管理システムそのものを簡略化したり、量産システムを改変して多品種少量への対応力を高めたりしたのだが、その基本は変わっていない。 一方、少量生産のクルマの場合はラインで生産方式の採用は難しい。一部の超高級車やマーケットの小さい特殊なスポーツカーを生産するケースだ。これらのクルマは量販するほど売れないから量産できない。ライン生産方式を取り入れたとしても生産システムの構築に莫大なイニシャルコストがかかり投資を回収できない。20世紀初頭以来、ライン生産方式の波に乗り損なったこれらの小規模メーカーは、それ以前と変わらず、最初から最後まで熟練職人が一名(もしくは数名)で作り上げる方法を踏襲してきた。 前述のようにトヨタは戦後、まだ生産台数の見込めない日本で低コストに多品種少量生産をするために、ライン方式に多品種少量への対応を盛り込んだ。ところが、社会が豊かになり、消費者ニーズが多様化し、工業製品がコモディティ化してくると、それだけでは間に合わなくなってくる。量産メーカーもより本格的な多品種少量生産に対応せざるを得なくなっていくのだ。それが「TNGA」によるモジュール化と生産設備のマルチロール化(混流生産化)である。