映画『運び屋』でイーストウッドが着た、アメリカらしい“ワークウエアの名品”とは?
ハリウッドの名優への評伝などで知られるマーク・エリオットは『クリント・イーストウッド ハリウッド最後の伝説』(早川書房)という著書の中で、イーストウッドの作風を次のように語る。「『ハード』といい、『ホワイトハンター ブラックハート』といい、クリントの映画づくりはさまざまな意味で彼自身の姿を投影した作品へと徐々に傾きつつある」。 【画像】映画『運び屋』でイーストウッドが着たワークウエアの全体像 イーストウッドがかかわった90年代の作品にしてそんな風に総評されていたわけだから、それから20年以上経った最近の彼の作品ではその傾向はさらに顕著だと断言できる。2018年に主演・監督した『運び屋』はその代表だろう。 この作品の原案になっているのは『ニューヨーク・タイムズ』に掲載された1本の記事で、80代でメキシコのカルテルの麻薬の運び屋となり、逮捕されたレオ・シャープという人物の実話が元になっている。主人公は第二次世界大戦の退役軍人で、かつてはユリの優秀な生産者として表彰されたこともあるアール・ストーン(イーストウッド)という人物。しかしアールは徐々に仕事がうまくいかなくなり、妻や娘からも愛想がつかされ、家さえも差し押さえになってしまう。そんな彼に友人から持ちかけられたのが「クルマを走って荷物を運んでくれるだけで稼げる仕事がある」というアブナイ話。荷物の中身は麻薬だ。しかし歳を取ったアールはどこにいくにも安全運転で、歌いながらクルマをゆっくりと走るアールを警察は怪しまず、何度も麻薬の運搬に成功し、多額の報酬を得る。 次第に悪の深みにはまってくアールだったが、イーストウッドの演技にあまり悲壮感が感じられないのもこの作品の特徴だ。撮影時イースウッドは88歳、この役をまさに飄々と演じている。これまでの彼のヒーロー的な役柄とはまったく違う。しかしドラマティックな筋立てなど一切ないにもかかわらず、作品が公開されると、「イーストウッドの集大成、イーストウッドの史上最高傑作」と絶賛され、全世界での興行収入は1億ドルを超えるほどのヒット作となった。