あいみょんの「マリーゴールド」は、なぜ“1億回再生”を達成できたのか?
この利用デバイスの大きな変化は、日本の音楽市場全体にも影響を及ぼした。コンサートを除く、フィジカルと配信(ダウンロード、ストリーミング)の合計売上額は、1998年から長きにわたり減少傾向だったが、音楽ストリーミングサービスの広がりが、減少に歯止めをかけ、V字回復への兆(きざ)しを見せるようになった。 ■〈情報源〉プレイリスト機能の広がり 音楽ストリーミングサービスは、音楽を聴くためのデバイスの進化版だが、音楽と出会う情報源としての性質も大きい。その役割を担っているのが、「プレイリスト機能」である。 プレイリスト機能はさまざまな楽しみ方がある。ユーザーが自分の好みの楽曲を自由に選んでプレイリストを作成して公開できるほか、音楽配信のプラットフォーマーが公式にプレイリストを作成し、ユーザーに提供している。 プレイリストの種類は多岐に及び、 ランキング、音楽ジャンル、アーティスト、生活シーンやそのときの感情などに合わせてプレイリストを選ぶことができる。公式プレイリストには、AIが個人の嗜好に応じて自動で生成するものもあれば、編集者によってキュレーションされるものもある。 公式プレイリスト入りがきっかけで、ヒットするアーティストが出てくると、プレイリストに入るための音楽ストリーミングプラットフォームへの新曲のプロモートは、アーティストにとって必須の動きになってきている。 従来の音楽プロモーションの、「マスメディアで取り上げられ、ランキング上位に入り、CDが売れる」という流れは、音楽ストリーミングプラットフォーム上では、「あるプレイリストに入って再生数がアップし、ランキングプレイリストに入り、さらに再生数がアップする」という流れに代替されるようになった。
デバイスと情報源の融合は、今みんなが聴いている曲をリアルタイムで知り、自分でもすぐに聴くことができるようになった。すべての楽曲には、どの国で、いつ、何回再生されているかのデータが付随し、ユーザーはデイリーランキングや急上昇ランキングも把握できる。 過去と同じく、ランキングには強い力がある。ランキングの曲がそのまま聴けるという便利さから、とりあえずランキングのプレイリストを聴いているというユーザーも少なくないからだ。 また、日本の場合は音楽ストリーミングサービスのランキングに入るアーティスト数は世界最少にもかかわらず、ランキング停滞期間は世界最長というデータもある。ランキング入りをして楽曲認知を広めることは簡単ではないが、一度入るとその後のロングヒットになりやすい状況であると言える。 一方、定額制で聴き放題という仕組みは、知らない曲との出会いも後押ししている。「聴いたことがない曲」を避けがちな音楽ライト層も、さまざまなプレイリストを利用し、新しい楽曲との出会いを受け止めるようになった。これは、過去の楽曲(旧譜)に対しても同様である。新曲だけでなく旧譜にもアクセスしやすくなったことで、ユーザーにとっての新譜と旧譜の境目はあいまいになった。 膨大な音楽データを保有する分析プラットフォーム「LUMINATE」によると、2023年の日本のストリーミングトップ1万の楽曲の中の約3割は、5年以上前の旧譜だという。楽曲リリース時にはまだ生まれていなかったような若い世代に、過去の名曲が再発見され、SNSやショート動画によって、再びブレイクする楽曲も出現してきている。 旧譜を懐かしく聴取するだけではなく、リリース日にこだわらずに聴取する利用者によって、CDが流通のメインだった頃には考えられなかったような音楽消費行動が始まった。