パラ五輪代表辞退の重定選手が賠償支払い、「墓に入る前に本人と話したい」中傷された小野寺選手の思い
●「私の軽率な投稿」重定さんの謝罪文と控訴取り下げに感じた疑問
重定さんからは、代理人弁護士を通じて、控訴取り下げと謝罪の言葉が伝えられたという。すでに賠償金は支払われた。弁護士ドットコムニュースが重定さん側に取材を求めたところ、8月29日にコメントが届いた。 「私の軽率な投稿により、小野寺朝子選手を傷つけてしまったこと、心よりお詫び申し上げます。一審判決には、一部私の認識とは異なる事実の認定などがありましたので、不服として控訴をしましたが、小野寺選手の負担と私自身の負担に鑑み、控訴を取下げました」 数日のうちに、控訴、控訴取り下げ、代表辞退、謝罪と目まぐるしい動きがあった。 小野寺さんは、重定さんの控訴について「彼女はパリ・パラ五輪の出場とメダル獲得を目標にしていたので、出場のために判決を引き延ばしているのではないかと感じていました」と語る。 「もちろん、控訴は誰にも認められた権利ですので、ルール違反を明らかにしたいという気持ちがあるならば、争ってもいいと思っていました。控訴取り下げのほうが驚きです。負担と言いますが、もしもパリに出られないから控訴を取り下げたのだとしたら、最初から控訴しないほうが良かったのではないでしょうか」 また、謝罪の言葉についてもひっかかる点があるという。 「『私の軽率な投稿』には疑問があります。重定さんは一連の訴訟の中で、私が車椅子で出場したという映像を保有し、裁判で証拠として提出する考えを示しました。 それは2019年12月のものだったので、それほど前から監視されていたのかと思い、正直怖かったです。 だから、軽率というより、恨みのようなものを感じたのが正直なところで、心からの謝罪かはわかりません。とはいえ、重定さんがすでに社会的制裁を受けたことは間違いないと考えています」
●「司法に訴える前に」競技連盟の発信にも驚いた
小野寺さんは、中傷の投稿者が明らかになった際に、双方が所属する日身ア連に、競技者等行動規範に基づき、重定さんの投稿を報告したうえで調査や懲戒請求を申し立てた。 小野寺さんによると、それから約4カ月間、返答もなかったので、改めて問い合わせをしたところ、調査に動いていないことがわかったという。 訴訟が終わってから処分を検討するという考えを伝えられた小野寺さん側は、ある大会の場で、連盟の担当者に早期の対応を頼んだこともあったそうだ。 日身ア連のコンプライアンス委員会は、重定さんが控訴した翌8月21日、公式サイトで出したお知らせの中で、「昨今の当連盟所属選手個人間の争い」について「当連盟は今後の事実関係の推移を慎重に見守るべき立場にあります」との姿勢を示した。 同じお知らせの中に、こんな文章がある。 「例えばルール関係で注意をされた際には、司法に訴えたりする前にまずは審判の指示に従うといったスポーツ界における然るべき順序と手段を以て対処してゆかないと、アーチェリー界全体の萎縮が進み、スポーツとしての高潔性を保つことが難しくなってゆく可能性もあります」 「司法に訴えたり」した小野寺さんは、上記のメッセージを、複雑な気持ちで受け止めた。 「連盟は、私が受けた匿名の中傷を、あくまでルールに関する注意であると今でも考えているのでしょうか」