あなたのDNAに潜む太古の魚 “インナーフィッシュ” の影
地球は46億年前に誕生したといわれています。そして生命は約40億年前に生まれ、わたしたちホモ・サピエンスの種が初めて現れたのは、およそ20万年前。地球の長い歴史を1年に置き換えた場合、人類は12月31日午後11時半過ぎにようやく出現したと例えられるほど、わたしたち人間の歩みは実は、とても短いものです。 人類出現まで、地球はどのように環境を変え、生き物はどのように進化してきたのか―。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、世界の最新化石研究について報告します。 ----------
前回は「恐竜」の体の色。今回は恐竜から少し(かなり)離れて「太古の魚」を取り上げてみたい。化石記録には大小さまざま実に多様な生物種が入り乱れている。恐竜はその中でほんの一部にすぎないという事実を認識していただけたら幸いです。私ももともとは恐竜から化石研究をはじめたが、現在はかなり幅広い生物グループ(中生代の無脊椎動物や古生代の植物を含む)に興味がある。しっかり目を凝らし耳をすませてみると、どの生物グループや種においても、非常に興味深くクールな事実が浮かび上がってくるものだ。これが「生命40億年のメッセージ」のメインテーマであることを恐竜ファンの方ご了承下さい。
10月16日付けの学術雑誌NATUREに、太古(シルル紀)の魚「アンドレオレピィスAndreolepis)」に関する研究論文が発表された(論文のサイト:1)。1968年に初めてこの魚が記載されて以来、現在知られている限り「最古の硬骨魚類」という触れ込みだ。今回の研究のリーダーであるスウェーデンのウプサラ大学のチェン女史(Donglei Chen:博士号課程を2017年春に修了予定)によると、何百というこの魚の化石標本がこれまでに見つかっているそうだ。脊椎動物の進化上、硬骨魚はその出現後、短期間のうちに適応・放散を遂げたのかもしれない。 化石研究者がこうした化石標本の研究論文を手にして、真っ先に注意をはらう点が四つほどある。(1)地質時代、(2)発見場所、(3)生物の系統および分類グループ、そして(4)(研究対象となる)体の部位だ。この順序に従って今回の研究を紹介してみたい。 この魚の標本は約4億2400万年前の地層から発見された。これはシルル紀と呼ばれる地質年代にあたる。4億4380万年から4億1920万年前にあたるこの地質年代の間、地球は現在と比べてかなり温暖で、世界各地に遠浅の海が広範囲に広がっていたと考えられている。そのためウミユリ(crinoids)、三葉虫(trilobites)、サンゴ等の海生動物の化石が非常にたくさん見つかる。そして大きく獰猛な捕食者ウミサソリ「Eurepterida」の仲間もこの時代の地層から知られている。一方陸地に目をやると動植物はほとんど見あたらなかったはずだ。非常に小さな最初の陸生植物がシルル紀の最終末あたりの地層から知られているが、最古の脊椎動物はさらにその後のデボン紀後半(約3億7000万年前)まで待たねばならない。