あなたのDNAに潜む太古の魚 “インナーフィッシュ” の影
チェン女史が今回の研究に用いた幾つかの標本は、全てスウェーデンのゴットランドという場所から発見されている。この魚は同じく北ヨーロッパのロシア北西部とエストニアからも多数発見されているそうだ(Marss 2002参照:2)。さて現在の世界地図においてスウェーデンがどこに位置しているのかは、ほとんどの方がご存知かもしれない。(スカンジナビア半島に位置する北欧の国の一つだ。)しかし今から4億2400万年前にスウェーデンが地球上のどの辺り位置していたか知っている人はほとんどいないのではないか? シルル紀当時、スウェーデンは(なんと)赤道のすぐ近く、北緯5-10度くらいに位置していた(脚注3)。西ヨーロッパと北ヨーロッパは現在のカナダ北東部と地続きでつながっており、大西洋などまだ存在していなかった。スウェーデンを含む北ヨーロッパ一帯は、シルル紀当時、大陸の海岸線からすぐそばの遠浅の海の底だったようだ。魚等の化石が多数見つかるのはそのためだ。(太古の世界地図などに興味のある方はDr. Ron Blakeyのサイト(脚注4)を是非のぞいてみて下さい)。 アンドレオレピィスには先述したように現在知られている限り最古の硬骨魚だ。しかし化石のほとんどが部分骨格や骨の破片の標本からなるので、はっきりした体の大きさは測りようがない。私が直接チェン女史尋ねてみたところ、体長は約20cmに届くかどうかという返事が返ってきた(アゴやウロコ等のサイズに基づく推定)。現生のイワシ弱くらいのサイズだと考えられるが、果たして何を食べていたのだろうか? シルル紀後半よりさらに古い時代の地層から、より原始的な魚の種も知られている(脊椎動物の祖先にあたる)。こうした種は鋭い細かな歯は備えていても、まだ(硬質な)骨でできたアゴを持っていなかった。そのため現生のヤツメウナギなどのように無顎類(むがくるいAgnatha)上に分類されている。体の大部が軟骨(=人間の鼻や耳にみられる)からできていたようだ。脊椎動物の進化史上、硬骨魚がその名のとおり初めて、頑丈で硬い背骨やヒレなどを手に入れた。