【解説】 COP29でたどり着いた大きな合意と残る課題
マット・マグラス環境担当編集委員 アゼルバイジャンの首都バクーで開かれていた第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)が24日に閉幕した。途上国からは、気候変動対策資金として2035年までに受け取る年間3000億ドル(約46兆1900億円)は「微々たる額」だと不満の声が上がっている。 COP29で発言した先進富裕国の多くは、途上国がこの一見巨大な額面に不満を抱いていることに驚いた。拠出額は、現在の年間1000億ドルから3倍に引き上げられているからだ。 しかし、途上国はより多くの拠出を求めていたため、最終的な金額には多くの真の課題が残った。 ■大きな合意、残った根深い対立 合意に対しては、単に十分ではないという不満や、補助金と融資の混合であるという不満もあった。また、富裕国がぎりぎりまで態度を明らかにしないことに、各国は深くいらだっていた。 インド代表のチャンドニ・ライナ氏は合意が採択された後、「この額は微々たるものだ」と他国の代表らに語った。 「この文書は単なる錯覚にすぎない。我々は、この文書では我々全員が直面している課題の深刻さに対処することはできないと考えている」 しかし最終的には、途上国はこれを受け入れざるを得なかった。多くの富裕国は、気候変動の懐疑論者として知られるドナルド・トランプ氏が来年、アメリカの大統領に就任すると指摘し、これ以上の好条件は得られないと主張した。 しかしこのパッケージは、富裕国から見ても短絡的なものだと批判されている。 もし地球の気温上昇を食い止めたければ、富裕国は新興経済国が排出量を削減できるよう支援する必要がある。過去10年間で排出量の増加の75%は新興経済国で発生しているからだ。 これについては、各国が今後10年間で温暖化ガスをどのように制限していくかを示した新たな国家計画が、来春にも発表されることになっている。 COP29がより寛大な現金での拠出を決めれば、間違いなく、そうした取り組みに良い波及効果をもたらしただろう。 そして、地政学的な不安定と混乱が起きているこの時期に、各国が気候変動対策で結束することは極めて重要だ。資金に関する大きな論争は、長年見てこなかったような怒りと苦々しさとともに、富裕国側と途上国側の間の古い対立をよみがえらせた。 ■COPそのものが瀬戸際に 200カ国をまとめ、気候変動対策のための複雑な合意に導くことは、常に困難な作業になることが予想されていた。そして議長国のアゼルバイジャンが、これまでCOPプロセスにほとんど関与してこなかった国だったこともあり、合意をまとめるのはほぼ無理という状況になった。 同国のイリハム・アリエフ大統領が、石油とガスを「神からの贈り物」と表現したことも事態を悪化させた。「西側のフェイクニュース・メディア」、「慈善団体」、「政治家」が「誤った情報を流している」と非難する同大統領の露骨な攻撃も、事態を改善するものではなかった。 アゼルバイジャンはエジプトとアラブ首長国連邦(UAE)に続き、COPを開催した3番目の独裁政治国家となり、開催国の選定方法についても懸念が高まった。 アゼルバイジャンの経済はUAEと同様、石油とガスの輸出を基盤としている。石炭、石油、ガスからの移行を支援することを目的としたプロセスとは矛盾しているように思われる。 多くの上級交渉担当者は、内心では不満を募らせており、一部の参加者からは、この10年間で最悪のCOPだったの声もあがった。 会議の半ばで、気候変動問題の複数の上級指導者たちは、COPは目的にかなっていないとし、改革を求める公開書簡を発表した。 ■中国の静かな台頭 トランプ次期米大統領の就任が近づき、今後の気候変動に関する国際会議でのアメリカの役割が疑問視されている。COP29では、アメリカの不在が予想される4年間に、誰が真の気候変動のリーダーとなるのかに注目が集まった。 当然とみられるのは中国だ。 世界最大の二酸化炭素(CO2)排出国である中国は、今年のCOPではほとんど沈黙を守り、途上国に提供する気候変動対策資金の額について初めて詳細を明らかにしただけだった。 同国は国連では依然として「途上国」と定義されている。これは、温室効果ガス排出量の削減や、貧しい国々への財政支援を行う正式な義務を負っていないことを意味する。 しかし、中国は金融取引という形で、気候変動の影響を受けやすい国々への基金全体に自発的に参加することとなった。 全体としては、これは非常に巧妙かつ効果的な動きとみられている。 アメリカに拠点を置くアジア・ソサイエティ政策研究所(SPI)の李碩氏は、「中国は、グローバル・サウス(世界の南側に偏っている途上国)への財政支援について、より透明性を高めつつある」と言う。 「将来的にはこれが、中国がより大きな役割を果たすようはたらくはずだ」 ■気候変動に「トランプ対策」を トランプ次期米大統領はCOP29に参加しなかったものの、その存在感は会議全体で感じられた。 バクーでの交渉参加者に共通していたのは、トランプ政権が発足しても、長年慎重に進められてきた気候変動交渉が台無しにならないようにする必要があるという点だった。 そのため、2035年までに資金援助を増やすことを約束しようとする富裕国がいたとしても、驚くことではない。この日付を合意に含めることで、トランプ氏の退任後にアメリカが再び気候変動対策に貢献できるようになると信じている。 同様に、拠出基盤の拡大に向けた取り組みも、トランプ次期大統領を念頭に置いて行われた。 中国を任意の立場であっても交渉のテーブルに着かせることは、COPのような国際フォーラムに参加する価値があることを示すために利用されるだろう。 シンクタンクODIグローバルの客員上級フェロー、マイケル・ジェイコブス教授は、「ホワイトハウスにトランプ氏がいることで、国際的な気候変動対策体制に悪影響が及ぶことは避けられないと、誰もが考えている」と述べた。 「この合意は、被害を可能な限り抑えることを目的としたものだ」 ■気候変動活動家がより活発に COP29で非常に顕著だった傾向のひとつは、多くの環境NGOや気候変動活動家が、時に攻撃的な姿勢を見せたことだ。 たとえば、アメリカのジョン・ポデスタ気候特使は、「恥を知れ」という罵声が飛び交う中、会議場から追い出された。 多くの途上国は、COPのような複雑なイベントに対処する際、こうしたNGOの支援に頼っている。 期間中には多くの活動家から、ほぼすべての合意を完全に拒否すべきだという強い主張があった。 同様に、最終本会議で全ての国が資金に関する文書を承認した際には、議長による議事進行の後、数カ国の代表が合意に反対する意見を述べた際に、野次馬的な喝采が湧き起こった。 対立的な行動主義や険悪な議論が、気候変動外交会議の新たな常識となるのだろうか? その結果は、次のCOPを待たなければならない。 (英語記事 Huge deal struck but is it enough? 5 takeaways from a dramatic COP29)
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