オフサイド新解釈にまつわる泣き笑い
自己最多となる17ゴールをマークし、J1の得点ランクのトップに立っているFW大久保嘉人(川崎フロンターレ)の記憶に、今も強烈に焼きついている一発がある。 7月31日にホームの等々力陸上競技場で行われた湘南ベルマーレ戦。0対0で迎えた前半44分に、ゴール左側の角度のない位置から右足で見舞った今シーズンの13ゴール目だ。 直後にベルマーレのチョウ貴裁(チョウ・キジェ)監督やコーチ陣、選手の一部がタッチライン際で審判団に抗議。試合再開までに時間を要したことも、大久保の記憶を鮮明にさせているのだろう。 あれはオフサイドじゃないか――ベルマーレ側の抗議をそう受け止めた大久保はほどなくして、飯田淳平主審に確認している。 「あれはオフサイドと違うでしょ。新ルールでしょ」 飯田主審が即答する。 「はい、新ルールです」 国際サッカー連盟(FIFA)がオフサイドの解釈を一部変更したことに伴い、J1のリーグ戦で適用が開始されたのが7月6日。正確な記録が残っているわけではないが、おそらくは大久保のこのゴールが新解釈のもとで生まれた国内第1号となる。 大久保のゴールシーンを再現する前に、オフサイドの新解釈をあらためて記しておきたい。 今回の解釈変更に伴って競技規則に追加された文章の中で、もっとも重要なのは次の項となる。 「相手競技者が意図的にプレーした(意図的なセーブは除く)ボールを、すでにオフサイドポジションにいる競技者が受けたとしても、その位置にいることによって利益を得たとは判断しない」 分かりやすく説明するとこうなる。 オフサイドポジションにいた攻撃側の選手Aへ味方からパスが出る。守備側の選手Bがクリアを試みるも、体の一部に当たった後に選手Aにボールが渡る。 これまでは、この時点で選手Aのオフサイドが宣告されるケースもあれば、オンサイドでプレーが続行されるケースもあった。国際的にも曖昧だった解釈の幅を狭め、主審が選手Bのプレーを「意図的」と判断すればオフサイドにはならないことを明確にしたのが今回の変更点だ。 一方で相手キーパーがセーブしたボールのこぼれ球や、ゴールバーやポスト、棒立ち状態の守備側の選手に当たってはね返ったボールがオフサイドポジションにいた攻撃側の選手に渡った場合は、これまで通りオフサイドとなることも明記されている。 棒立ち状態とは、つまり選手に守る意図がなかったことを意味する。バーやポストに当たった場合は「意図的なセーブ」と同じ扱いになるという。 足を伸ばして相手のシュートコースを変えた場合や、FKに対する守備で壁に入った選手が飛び上がってボールに触れた場合など、例を挙げれば枚挙にいとまがない。それらが意図的なプレーか否か。あるいは、意図的なプレーなのか、意図的なセーブなのか。すべては主審の瞬時の判断に委ねられる。