オフサイド新解釈にまつわる泣き笑い
解釈変更を受けて横浜F・マリノスが選手たちに徹底したことは、おそらくはJ1の全クラブに共通しているはずだ。樋口靖洋監督が振り返る。 「主審の笛が鳴るまでプレーをやめないこと。選手側で勝手に判断しないこと。そうするしかない。ウチはたまたまそういうケースがまだないけど、ホントに解釈が難しいですよね(笑)」 さて、大久保のゴールシーンである。 フロンターレが得た右CKを、ニアポスト付近にいたベルマーレのFWキリノが頭で大きくクリア。この瞬間、ベルマーレの選手たちがいっせいにラインを上げる。 セカンドボールを拾ったのはフロンターレのMF稲本潤一。相手が寄せてきたこともあって、誰を狙うわけでもなく、本人曰く「クリアのような感覚」で山なりのパスをゴール左へ上げる。 反応したのはCKで攻め上がっていたDF中澤聡太。ベルマーレのDF遠藤航もマークにつく。この時、大久保は競り合う2人を追い抜き、ゴールの左側、ゴールラインが見える位置に歩を進めていた。明らかなオフサイドポジションだ。 ヘディングでのクリアを試みようとした遠藤だったが、中澤と体を密着させる中で体勢を整えられない。そして、落下してきたボールは遠藤の足に当たり、前方にいた大久保への絶好の「パス」となった。 ベルマーレの選手数人が手を挙げてオフサイドをアピールしたが、飯田主審の笛は鳴らない。大久保のトラップはやや大きかったが、間合いを詰めてくる相手はいない。体を反転させて右足を振り抜くと、強烈なシュートがGKアレックス・サンターナと左ポストのわずかな間を突き抜けていった。 この場面では、ボールが遠藤の足に当たったプレーが「意図的なクリア」と見なされたことになる。日本サッカー協会のホームページには、守備側の選手の意図的なプレーについて「それが思い通りのプレーでなかったとしても」と補足されている。 実際、大久保にボールが渡った瞬間、遠藤の脳裏にはオフサイドの新解釈が浮かんだという。 「これはオフサイドじゃない、と思いました。僕の完全なミスです」 大久保は「FWにとってはすごくラッキー」と解釈の変更を歓迎する。 「あの時は『オレのところにボールがこぼれてくるかな』と思って、ゴールラインが見えるところまで行ったんですけど。今までだったら100%オフサイドっすよ(笑)。FWにとっては有利ですよね。オフサイドの位置にいて、相手がギリギリのところでクリアしたボールが後ろにきてもオフサイドにならない。相手がボールに触らなきゃオフサイドになるんだけど、サッカーを始めた頃からの習性があるから絶対に触っちゃう。後ろの選手にとってはホントに可哀想というか、最悪ですよね」