オフサイド新解釈にまつわる泣き笑い
前線の選手はこれまで通りにプレーすればいい。齋藤学(横浜F・マリノス)や工藤壮人(柏レイソル)ら、日本代表でのプレーを経験した伸び盛りの若手FW陣も、異口同音に「やることは変わらない」とオフサイドの解釈変更がプレーに及ぼす影響はないと言い切る。 逆に守る側はギリギリの局面で、思い切ったプレーができなくなるのではないか。遠藤は「その怖さは多少ある」とDF陣の思いを代弁しながらこう続ける。 「オフサイドの位置に相手のFWがいたとして、相手のパスを僕が先に触ったら、今まではそのFWは攻撃に関与せずにディフェンスに回っていたんですけど。(新解釈では)僕がボールに触った瞬間を狙って、ボールを奪いにくるんじゃないかという怖さはありますね。サイドからFKを蹴られる時なんかも、最初はオフサイドポジションにいた選手に上手く中へ入られた時にどう対処すべきなのか。オフサイドポジションに相手のFWがいるからといって、安心はできないことになりますよね」 ベルマーレのチョウ監督の言葉は、今回の解釈変更の核心をズバリ突いている。 「ディフェンス泣かせであることは間違いないですね」 マリノスの元日本代表DF中澤佑二もこう指摘する。 「簡単に『オフサイド』と言って、逃げてきた選手たちは判断の部分で迷うかもしれない。ウチはオフサイドをアピールしてプレーを止める選手は少ないので、そんなに影響はないと思いますけど」 こんなことも考えられる。針の穴を通すようなボールコントロールを誇るゲームメーカーならば、味方をオフサイドポジションに置いた上で、相手のクリアミスを誘うギリギリのポイントにパスを出すか、あるいはFKを蹴り込んで、ゴールを狙わせることもできるのではないかと。 例えば、絶好調をキープしている元日本代表MF中村俊輔クラスならば……。 「それは無理。そこまでは無理ですよ」 マリノスのチームメイト、DF栗原勇蔵が流れの中ではまず不可能と断言すれば、フロンターレの風間八宏監督も苦笑いしながら否定する。 「(オフサイドの新解釈を)計算して何かに利用するのは、はるかに難しいこと。審判もよく分からないのだから、要はプレーをやり続けることが一番大事なんです」 余談になるが、大久保のゴールが決まった直後にベルマーレ側は何に対して抗議していたのか。 チョウ監督によれば、最大の論点は大久保のゴールがオフサイドか否かではなく、大久保がオフサイドポジションにいたことに対して、副審がフラッグを上げていなかった点への是非だったという。 「副審のフラッグが上がったからといって、主審がオフサイドを取るかどうかは別問題。副審の位置からは詳細は見づらかったはずなので、だからこそフラッグを上げるべきだった。その上で、主審の裁量によってゴールが認められるべきなのではないかと。主審と副審の裁量の違いを、あらためて認識する必要があると思ったんです」 オフサイドの新解釈においては、オフサイドポジションにいる攻撃側の選手にボールが出た場合、最終的には主審の判断に委ねられるものの、副審はこれまで通りにフラッグを上げることが求められている。 チョウ監督の指摘通りというわけだ。審判団側もヨーロッパの新シーズン開幕に合わせた、日本においてはシーズンの真っ只中での解釈変更に多少なりとも混乱をきたしていることになる。 (文責・藤江直人/論スポ)