日本人が知らない、硫黄島で見つかった「首なし兵士」の知られざる実態
なぜ日本兵1万人が消えたままなのか、硫黄島で何が起きていたのか。 民間人の上陸が原則禁止された硫黄島に4度上陸し、日米の機密文書も徹底調査したノンフィクション『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』が13刷ベストセラーとなっている。 【写真】日本兵1万人が行方不明、「硫黄島の驚きの光景…」 ふだん本を読まない人にも届き、「イッキ読みした」「熱意に胸打たれた」「泣いた」という読者の声も多く寄せられている。
第三のスペシャリスト「人骨の鑑定人」
収集団には化学さんと弾薬さん以外にも同行するスペシャリストがいた。人類学者や考古学者ら「鑑定人」と呼ばれる人骨の専門家たちだ。現場では「鑑定人」ではなく「センセイ」と呼ぶ団員が多かった。同行する鑑定人は一人の場合が多い。現場で収容された数々の遺骨を分析するのが役割だ。収集した遺骨の中に日本人以外の遺骨が交じっていないかなどを骨の特徴から確認する。 収容した遺骨の人数を割り出すのも重要な役割だ。硫黄島では複数人の遺骨が入り交じって見つかることが少なくない。鑑定人は重複する骨がないかをつぶさに確認して、重複していなければ一人、重複していれば二人と判断する。 かつて鑑定人は収集団には同行していなかった。しかし、近年、海外の遺骨収集現場で日本人ではない遺骨を誤って多数収容していた事実が判明し、問題化した。そうした事態を防ぐために同行が始まった。 一般人が人骨の専門家と接する機会はそうない。だから、僕は休憩時間によく話を聞いた。例えば、初日に見つかった「首なし兵士」について、年齢は何歳ぐらいなのかと尋ねた。鑑定人は即座に応えた。 「アラサーですね。20代後半から30代ぐらいかと」 どうやって推定したのかについても教えてくれた。 「恥骨の結合部。年齢の推定には、ここが重要なんです。若いころは波打っているんですが、そのうち平らになってぽこぽこ穴が空いてくる。加齢とともにそうなっていくんです。この遺骨の場合、波打ちはなくなっているんだけど、穴はまだぽこぽこ空いていない。それでアラサーではないかと推定しました」 印象的なのは、化学さんも弾薬さんも鑑定人も、それぞれの職務以上の活動をしていたことだ。三者とも、壕の中で掘った土砂を出すときには、バケツリレーに加わり、大きな岩を動かすときも加勢した。弾薬さんは僕にこう言った。 「汗だくになって遺骨を探しているお年寄りを黙って見ているわけにはいかないですよ」 遺骨収集団は、年齢も出身地も職業も立場も何もかも違う混成の集団だったが、戦没者を本土に帰すという目的はただ一つ。団結力は間違いなく日増しに強くなっていった。 つづく「「頭がそっくりない遺体が多い島なんだよ」…硫黄島に初上陸して目撃した「首なし兵士」の衝撃」では、硫黄島上陸翌日に始まった遺骨収集を衝撃レポートする。
酒井 聡平(北海道新聞記者)