IHI・日立造船・川崎重工業「改ざんだらけ」、エンジンの検査不正はなぜ起きるのか
なぜ不正行為が行われたのか? その原因
では、なぜ不正行為が行われたのでしょうか。3社の調査報告書から不正行為の原因を読み取ってみましょう。 不正行為の動機は3社とも共通していて、燃料消費率が仕様値を満たさなかったときの顧客への説明を回避するためでした。燃料消費率は試運転時の気温・湿度などの条件により変化するので、試運転における燃料消費率の実測値が仕様値を満たさない場合があります。 そのときに、顧客から説明を求められるそうです。試運転は、性能部門・設計部門・エンジニアリング部門や製造組立部門、言い換えると、顧客から求められれば説明をする立場の組織が担っていました。 また、舶用エンジンの試運転および記録作成のプロセスには手書きの記録やシステムへの手入力が多く、実測値と違う数値を記録することが可能な手順でした。 一方、試運転には顧客と船級協会(船舶の船体やエンジンなどの構造や状態が良好であることを検査・証明する機関)が立ち合います。プロである彼らさえ不正に気付かず、信頼しきっていたことから、試運転がセレモニーのようになっていたことが推察されます。
3社が取り組む不正行為の再発防止策
3社の調査報告書は、再発防止策についても記載がありました。IHI子会社では、直接的な再発防止策の中核は、燃料消費量・消費率の計測と記録を自動化し、人手を介さないことにより、書き換えできなくするものです。 日立造船子会社では、燃料消費量の計器の値を操作する機能の除去、水制動機の調整機能の除去などが再発防止策とされました。 川崎重工業では、燃料消費量計測の校正のために設置されたつまみを計測値の調整に利用していました。対策としては、校正後に封印をする手順にして、計測値調整のためには使用できないようにしました。 測定器などの表示の写真撮影も有効かつ簡便な再発防止策と言えます。日立造船子会社では、測定器の表示を写真撮影して証拠として残す対応を再発防止策に組み込む考えです。IHI子会社でも、検査結果記録の自動化ができるまでの暫定対策として、計測器の写真を証拠として残す対応がされました。 そして、3社共通している再発防止策の1つが、試運転の独立性確保です。3社とも、エンジンを設計または製造した部門の要員が担い、品質保証部門は十分に関与していませんでした。製品を設計または製造した人が、自らの成果を評価していたわけです。再発防止策としては、品質保証部門が直接監督者として試運転に立ち合う、または計測値と記録値の整合を確認することとしました。 そしてもう1つの共通する再発防止策が、コンプライアンス意識の醸成、企業風土の建て直しです。3社とも、試運転で行われている行為は、所属員はもとより、管理者や当該部署出身の役員も認識していました。しかし、それを「変えよう」と言い出せない風土だったのです。