金メダル獲得だけではない。BREAKING TEAM JAPANが残した功績。 ~ EP.1 ユニフォーム文化の脱却 ~
試行錯誤だったオフィシャルウェア
JDSFマーケティング担当の千野氏はこう語る。 「トータルで約3年ほど制作に時間を費やしました。逆に言うと3年でよくここまで作ってもらったなという想いです。NIKEさんとご一緒させていただき、我々のリクエストをとても的確に受け入れてもらうことができました。日本代表選手は4名ですが、その4名にそれぞれ個性があるため、セットアップなど1つのコーディネートではなく、それぞれの選手が自由に組み合わせられるファッション性のあるフェデレーションキット(ユニフォーム)を目指しました。オリジナリティがパフォーマンスにも影響を与えると思いますので。でも、そうした考えを進めていくとあれもこれも必要というようにどんどん話が膨らんでいき、付属品も含めると気がついたら60アイテムほどになっていました。それを、我々のフィードバックも反映いただきながらこの期間で作りあげていただき感謝しています。」 さらに、今回のユニフォームの制作にあたり、世界的に有名な抽象ストリートアートの先駆者である「FUTURA」がデザインを担当しており、NIKEの本気度が伝わってくる。随所に彼の代表的なキャラクターやアイコンなどが取り入れられていた。中でもスタジャンは、ファッション性の高いアイテムに仕上がっている。どれも実際に販売をするにあたり、アパレル商品としての側面も持ち合わせている。
デザイン性に加えて、こだわった着心地と機能性
例えば、ブレイキンはフロアに接触する部分が「頭」「ひじ」「膝」「背中」「尻」「肩」など多岐に渡る。さらにスピン技など摩擦が生じる技については、周りやすいテクスチャーか、またその布の丈夫さや厚さなど、細かい部分を加味すると気を遣うポイントが多々ある。取材を重ねて驚いたことは「言われないと気が付かない」機能が随所に施されていることだった。 JDSF理事であり、ブレイキン ディレクターの渡邊マーロック氏はこう語る。 「最初に上がってきたサンプルを実際にJDSFの強化選手やスタッフたちに着て踊ってもらいました。例えば、パンツの足元は絞る紐と捲ることができるようにしたいと言うことや、フードは被りたいけど、被って絞ると紐が垂れて踊る時の妨げになるので無くしたいなど、細かくフィードバックをさせていただきました。生地の質感や、ボタンやチャックなどフロアに当たる部分の位置関係など、ファッション性の部分と機能性の部分のバランスをNIKEさんにはとても上手に表現していただきました。このフェデレーションキットはよく見るとBREAKINGならではの体裁になっているんですよ。」 こうした背景により、選手たちに“着させる”ユニフォームではなく、“自ら選んで着る”ユニフォームが生まれ、その結果AMIは出場するたびにユニフォームを変更し、その模様が大きくメディアに報道されるなど本来のHIPHOPのカルチャーの側面である“個性”を表現することに寄与した。勝ち負けだけではなく、シーンを盛り上げるきっかけにも繋がった。こういった考え方そのものが、これまでのIOC率いるスポーツ競技になかったように思う。もちろん、団体競技などそれぞれスポーツ競技には歴史がありルールがある上で、ユニフォームを統一するものもあり、それらを否定するわけではない。ただ、今大会でBREAKING JAPANが、ブレイキンカルチャーをリスペクトする姿勢を新たな角度で主張し、カルチャーシーンからも応援される組織づくりやBREAKINGならではのメッセージを活かし体現したことは、スポーツシーンにおいて新たなフォーマットを提示できたように思う。