政治はマイノリティに光を当てるべき...泉房穂が「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」受賞で語った思い
フライヤーCEO・大賀康史による「ビジネス書グランプリ2024」総括
2023年を振り返ると、とても変化の激しい1年だったのではないでしょうか。 ChatGPTが3月の中旬頃に出て、生成AIの本格的な台頭によって人類の唯一と言える優位性と考えられていた知性の領域が代替される可能性を感じさせられたのではないかと思います。 その一方で、大谷翔平選手のメジャーリーグでのMVP獲得や、藤井聡太棋手の8冠制覇といったこともあり、圧倒的な個人の活躍が見られたような年でもありました。 3年ほど続いたコロナ禍は、新型コロナウイルス感染症が5類に移行されて、濃厚接触を気にする機会が以前よりは減ってきたような実感があります。 経済面では、デフレ経済が長らく続いていましたが、一段落して、インフレ経済への転換が始まったのではないかと思います。日本ではまだまだ低金利であることから、新NISAの導入によってようやく、貯蓄から投資へのお金の流れが本格化していると考えられます。 こうした変化を受けて、多くの人は、過去の延長上に未来はないのかもしれないと想像しています。そして個性が重んじられる時代に変わり、自分が集団の中で埋もれぬように、ただ生きているだけでは物足りないとも感じています。 このような背景を受けた受賞作の傾向から、今回のビジネス書グランプリのキーワードは、「新たな価値観の再定義」といたしました。仕事、お金、経済、投資、コミュニケーション、幸せ、生きることの全てに対して、常識と考えられていた社会全体を主体とする大きな価値から離れて、個人を主人公とした価値の再定義を促すような本に注目が集まっていると思います。 総合グランプリは『君のお金は誰のため』でした。お金という誰もが日常的に意識せざるを得ないものに対して、客観的にその仕組みを捉えて、私達が何を大切にして生きていくべきかが自然な形で導かれる作品でした。金融の最前線で長く活躍された田内さんだからこそ伝えられるリアリティのともなった考え方が印象に残りました。 自己啓発部門賞『世界一優しい「才能」の見つけ方』、マネジメント部門賞『任せるコツ』、ビジネス実務部門賞『頭のいい人が話す前に考えていること』は、いずれも、仕事や私生活で才能や努力を発揮して自分らしく生きていきたいという願いを叶える本だと感じました。 政治経済部門賞に輝いた『社会の変え方』は、多くの人が政治に少しばかりの諦めを感じている、あるいは感じていた中で、一筋の希望や道筋を示された作品だったように思います。 そして日本らしいAIやロボットへの姿勢を感じられる『温かいテクノロジー』は今回のイノベーション部門賞らしい、1冊だと感じております。 教育や個人の生き方に新たな問いを投げかけたのは、グロービス経営大学院賞に輝いた『冒険の書』でした。才能や努力によって、誰もが出世できると考えて努力を強いる、いわゆるメリトクラシーと言われる考え方を前提としてしまう怖さについて深く考えさせられる作品だと思います。 私達の世代は、社会人になる前に『金持ち父さん 貧乏父さん』で、資本主義社会に生きる人がお金を増やす方法を学んだ方が多いのではないかと思います。参考になるところがとても多いものではあったんですけれども、社会の格差が広がる中で、富の最大化が目的では、幸福感を感じにくくなっているんじゃないでしょうか。 そのお金を経験の最大化、つまり幸福のためにいつどのように使うかが語られた「DIE WITH ZERO」がロングセラー賞になったことに、今の時代が反映されているように思います。 今までの知識や経験で築かれた価値観が揺らぐ現代で、自分ならではの答えを出していかなければいけません。今回の受賞作は、自分と向き合う大切な時間を過ごせるものばかりなのではないかと思います。
PHPオンライン編集部