東証による異例の「PBR1倍割れ企業に対する改善要請」…外国人投資家の評価は?【株式ストラテジストが解説】
英国のGLGも「日本株式会社を大きく変えるきっかけ」と評価
英国の上場運用会社のマングループ傘下のGLGはバリュー株運用を信条にしています。その運用拠点はロンドンではなくヨークにあり、コロナ前には私も度々ロンドンから電車で訪問していましたが、2023年3月にHP上で「This Time Is Different:Japan Value and Corporate Governance」との見方を掲載しました。その内容は以下のようなものです。 ・TOPIXの株式の約半分が簿価以下で取引されており、この比率は20年前と同じだ。これに対して、S&P500企業のPBR1倍割れは3%しかない。 ・一般的にバリュー株はグロース株より、割安に取引されている。そのため、低バリュエーションの企業をターゲットにした東証の施策は、バリュー株の恩恵になる。ラッセル野村トータル・バリュー指数の組入銘柄の65%がPBR1倍割れになっているのに対して、ラッセル野村トータル・グロース指数の場合は組入銘柄の6%だけである。 ・銀行、エネルギー、鉄鋼のような典型的なバリュー業種の9割以上がPBR1倍割れとなっている。 ・PBR1倍割れ企業のROEは低い。PBR1倍割れの企業は、資本コストを上回るROEを達成する必要がある。ベンチマークとなる資本コストは8%だ。東証プライム企業で8%未満のROEの企業は48%に達する一方、S&P500企業でROE8%未満は13%に過ぎない。 ・日本企業がROEを改善する施策としては、(1)余剰資金や政策保有株式の削減、(2)事業の収益性改善、(3)コア事業にフォーカスし、低採算の子会社を減らすことが挙げられる。 ・基調的な収益性を改善するためには、コスト構造やビジネスモデルの変革など長期的な仕事が必要になる。一方、現金を減らして、自社株買いを増やすことは短期間に簡単にできる。 ・日本の過去の株主価値を増やすためのコーポレートガバナンス改革の成功は限定的だった。しかし、2023年の東証の低PBR改善要請は、日本株式会社を大きく変えるきっかけとなり、より良いコーポレートガバナンスが達成されるかもしれない。 菊地正俊 みずほ証券エクイティ調査部チーフ株式ストラテジスト ※本記事は『低PBR株の逆襲』(日本実業出版社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
菊地 正俊