中国・四川省の山椒で本場の味「coQere」(西小山)|ペアリングを愉しむ日本酒レストラン
■「料理の原点」を自負する四川料理と日本酒の共演 [日本酒 × 中国料理] (※その他の写真は【関連画像】を参照) 【関連画像】中国・四川省の山椒で本場の味「coQere」(西小山)|ペアリングを愉しむ日本酒レストラン 店名の「コクエレ」とはラテン語で「調理」を意味する言葉、「クッキング」や「キュイジーヌ」の語源でもある。「コクエレ」は料理の原点ともいえる言葉だ。 「料理の世界に入った時から、いずれ開く店の名を『コクエレ』に決めていました。別の店に名前を取られないように、いつもネットをチェックしてましたね」と店主の柘植(つげ)和志さんは語る。 料理学校卒業後、ホテルの調理場に勤めてその後、本格的に四川料理の世界に邁進し料理長も務めた。32歳で独立し念願のレストラン「コクエレ」を立ち上げ、今年で12周年。完全予約制の当店は、本場の四川料理、そしてビールや紹興酒こそメニューにあるものの、日本酒のペアリングで注目される。 目下のお勧めは四川料理のシンボルである麻婆豆腐。豚ひき肉、青みにネギだけでなく葉ニンニク、舌にトロリと優しい絹ごし豆腐、味の命である香辛料は柘植さん自身が四川省で買い付ける山椒に花山椒、そして熟成を重ねた豆板醤二種類を強火で一気に炒め合わせる。 とろみ付けの片栗粉を入れたところで火から下ろすのが一般的だが、この店では強火のまま焦げ目をつける。これこそプロの仕事と誇る柘植さん。口中に投じた麻婆豆腐は素材の滋味と香辛料の共演がほとばしる。 さて合わせる日本酒は「益荒男」の熟成古酒。酒の味を引き立てる、とされる錫の酒器に、黄色味を帯びた色合いでトロリと盛られている。酒の温度は常温でも、温めてもよい。 米から造られた日本酒は、いわば「ご飯」。温めた酒は炊きたてのご飯だ。素材の深みと香辛料のパンチが利いた麻婆豆腐を、米の滋味を纏わせた酒が優しく薫っていく。 ■■麻婆豆腐 《柔らかな絹ごし豆腐》×《熟成させた豆板醤》 豚ひき肉と葉ニンニク、黄色を基調とした皿に映える色合いを醸し出すのは本場四川省の3年ものの豆板醤。豆板醤はさらに熟成させて料理に用いる。調理のポイントはとろみ付けの片栗粉を投じたのちも火を止めず軽く焦がす、これこそプロの技。絹ごし豆腐と香辛料のハーモニーが絶品。 ■日本酒マリアージュ益荒男 山廃純米 極(石川県・鹿野酒造) ・2甘 ・穀物香 ・苦味 ・コク 能登杜氏の農口尚彦氏の醸造。5年間かけ低温で熟成させた山廃純米原酒。 ■2日間かけて煮込んだ豚足 揚げて炒めてサクサクに 豚足といえば沖縄料理でおなじみの食材。柘植さんが熱した油におもむろに豚足を投じれば、軽やかな音とともに揚がっていく。 「大切なのは下ごしらえです。加熱しては冷まし、その繰り返しで2日間かけて煮た上で揚げます」 生煮えでは歯に固く、反対に煮すぎでは揚げた瞬間に弾けてしまう。その微妙な感覚の体得がポイントだ。カラリと揚がった豚足を別鍋で一気に炒める。具はタマネギにレモンの果肉、味付けは豆鼓(トウチ)、香辛料はクミンに生の粒山椒に月桂樹の葉、そして大量の唐辛子。 さて豚足を噛みしめれば、絶妙な食感に驚く。豚足を食べる際の楽しみは、ゼラチン質をしゃぶり骨同士をつなぐ軟骨をコリコリと噛みしめること。絶妙な煮加減ゆえ、双方が同時に堪能できる。加えてさっくりした揚げ具合に、具のレモン果肉が爽やかに香る。 合わせる日本酒は、ドラゴンのラベルが鮮やかな「高龍」。冷やした状態で口に含めば、柑橘類にも似たフルーティな味わい。揚げ物ながらさっぱりした感覚の豚足、その香気を軽やかにまとめる。 ■■豚足の唐揚げ レモン・クミン炒め 《数日間煮込んだ豚足》×《レモン・クミンの香り》 下ごしらえした豚足を大量の油でカリッと揚げ、そのうえで豆鼓にクミン、粒山椒に月桂樹の葉、さらに唐辛子3種と炒め合わせる。味のポイントはレモン果肉。フレッシュな自己主張が全体を爽やかに引き締めてくれる。サクサク感を堪能するためには、すばやく食べること! ■日本酒マリアージュ高龍 生原酒(新潟県・高千代酒造) ・3甘 ・果実香 ・酸味 ・余韻 赤いドラゴンの「高龍」の中でも貴重な生原酒。果汁のような爽やかさ。 ■目にも鮮やかな唐辛子とスパイスに合うドライ感の酒 「コクエレ」にうかがい、最初に前菜としていただいたのは「香辣鶏(シャンランチー)」。信州産の鶏肉を蒸してほぐし、刻みキュウリと和える。 前菜の冷菜としてガラス皿に盛られた姿は、初夏という季節感も相まって目に涼やか、鮮やか。大地の恵みをそのまま受け止めたような鶏の胸肉、鮮やかなキュウリ、そして赤青の唐辛子がグラデーションを成し、緑の青山椒がアクセントに。 味の決め手はやはり本場四川省産の山椒に花椒(ホアジャオ)。柘植さんが自ら現地に赴いて買い付けるのは、当地でも名品として名高い「漢源」の花椒だ。口中に運べば鶏の滋味にキュウリの爽やかな歯ごたえが呼応して山椒と花椒がパッと弾け、青山椒がカリッと香る。 続く日本酒は大洋酒蔵の「無想 散憂」の冷酒。淡麗な飲み口ながら香辛料を生かした料理との相性から、あえて深みのある古酒を合わせるのが柘植さんの工夫。香辛料の香気が残る口中を「スパイスにも似た味」と称される「無想」が洗っていく。 晩春から初夏へと至る宵の風の中、まさに季節の到来を予感させる余韻だった。 ■■香辣鶏 《長野県産鶏肉》×《酸味のあるソース》 蒸し鶏に刻みキュウリを生唐辛子に赤唐辛子、粉山椒で和える。口中に投じて噛みしめれば、粒の生山椒がカリッとかみ砕かれて芳しく薫る。付け合わせの新鮮なパクチーは目にも鮮やか、新鮮な香りがアクセントを与える。日本酒と合わせれば、喉の奥でまたも薫る。 ■日本酒マリアージュ無想 散憂 辛口純米吟醸おりがらみ生原酒(新潟県・大洋酒造) ・1甘 ・旨味 ・余韻 ・コク 優しい飲み口ながらドライ感を併せ持つ。それがスパイスに合うと柘植さん。 ■おすすめコース(6000円~) ●前菜2~3品 ●茄子のカリカリ山椒揚げ ●海鮮料理 ●肉料理 ●麻婆豆腐 ●チャーハン ※コースに日本酒は付きません。 coQere(こくえれ) 東京都目黒区原町1-16-17 シャルム原町102 TEL:03-6303-2543 営業時間:18:30~23:00(土日祝18:00~22:00) 定休日:月曜、第3火曜 取材・文/角田陽一 撮影/本田織恵 ※この記事は2024年8月号に掲載されたものです。