Mrs. GREEN APPLE、15人で晴れやかに鳴らした真骨頂 定期公演『Harmony』は心と体で対話できる空間に
大森元貴、様々な境界線を越境していく稀有な表現者
15人によるオーケストラ編成は、ミセスの3人それぞれの個性を覆い隠すことなく、むしろ剥き出しにしていたと言っていいだろう。若井はロックスター然としながらギターを弾きまくって空間に熱いパッションをもたらしていたし、藤澤はキーボード、フルート、アコーディオンと、様々な楽器を演奏しながら曲を色彩豊かに彩り、常に優しい笑顔を浮かべるその存在感の柔和さは空間全体にも浸透していた。 そして、大森は……「ひとりの人間の肉体で、一体なぜこれほどのことができるのだろう?」と驚愕するほどに凄まじかった。皮膚を1枚めくった場所から生まれたような、叫び、祈り、メッセージなど様々な表情を生み出す“人間の歌”。彼はステージの真ん中で威風堂々と歌い上げたかと思いきや、ポケットに手を入れながらスタスタと軽やかに歩くように歌い、「光のうた」や「SoFt-dRink」、「They are」といった楽曲では、小道具の本をアイテムにして、演劇性も感じさせるパフォーマンスも見せた。その多彩さ、多面性、複雑さが、分裂気味になることなく、ひとりの人間の動作として滑らかにパフォーマンスされていることに息を呑んだ。彼はサッとジャケットを羽織るような自然さで、様々な境界線を越境して見せるのだ。ボーカリストとして、音楽制作者として、コンセプトメイカーとして、ひとりの人間として、大森元貴は、本当に稀有な表現者だ。 「クダリ」の演奏のラスト、大森と若井が、今にもクラスの女の子から「ちょっと男子!」と怒られそうな小学生男子ばりにじゃれ合う姿には思わず笑ってしまった。表現はハイクオリティに作り込まれているし、コンセプトは綿密に突き詰められているが、高度で派手な衣装を纏うからといって、素で自然体な自分たちを隠すことも捨て去ることもない、愛すべき3人組だ。そんなMrs. GREEN APPLEだからこそ生み出すことができた、人と音楽があるがままに祝福し合う空間――『Harmony』はそんな素晴らしいライブだった。
天野史彬