「グランドセイコー」がロレックス追撃 アメリカで高級ブランドの上位に食い込む、日本の職人技が認められる
毎年11月に開催される「時計界のアカデミー賞」と評されるジュネーブ時計グランプリでは、2024年度のメンズ部門でグランドセイコーがノミネートされている。 クリスマスを控える11月は1年で最大の商戦期でもある。セイコーの柴﨑氏は「4月の展示会に新製品を発表し、11月のコンクールで受賞というサイクルを確立することで、ブランド訴求を図る」と意気込む。 アメリカでの成功を足がかりに、次に狙う市場は本丸の欧州だ。欧州はスイスの老舗ブランドが支配的であり、参入のハードルは非常に高い。こうした高級時計の世界では、ブランドの歴史や物語性が重要視される。
品質面では、セイコーは一貫して自社で時計を製造する「マニュファクチュール」としての強みがある。グランドセイコーはすべての製品が国内製造で、岩手県雫石町では機械式、長野県塩尻市ではクオーツ式とスプリングドライブが職人の手で組み立てられている。 特に、時計の心臓部であるムーブメントを部品から開発・設計できるメーカーは世界でも限られている。セイコーはその数少ない1社で、真のマニュファクチュールといえよう。長年培った技術力はスイス勢に対抗する武器となるだろう。
スマートフォンやスマートウォッチの普及により、腕時計が時刻を確認するための道具という役割は薄れつつある。むしろ時計は自己表現や情緒的な価値を持つアイテムとして再評価されている。 「SEIKO」ブランドは2024年に誕生から100周年を迎えたが、グランドセイコーはブランド再構築からまだ日が浅い。日本的な美意識や伝統的な職人技を世界が今後どう評価していくのか。伝統や物語性が重要になる高級ブランドを、日本で作り上げるのはまさに挑戦だろう。
山下 美沙 :東洋経済 記者