日産初のFF車「チェリー」が採用した、エンジンの下にトランスミッションを配置する“イシゴニス式FF”とは?【歴史に残るクルマと技術037】
トヨタ「カローラ」との販売競争でヒートアップし大型化した「サニー」に代わり、1970年(昭和40)年、日産自動車のエントリーモデルとして小型大衆車「チェリー」がデビュー。個性的なスタイリングと一般的なFFとは異なるイシゴニス式FFレイアウトを採用した日産初のFF車は大きな注目を集めた。 TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:Racing on誌 【画像を見る】日産チェリーの詳しい記事を見る
居住性が重視されてFRからFF化が加速
自動車が誕生した時点では、リヤにエンジンを搭載して後輪を駆動するRRレイアウトが一般的だったが、振動・騒音面で不利だったので、それを解消したFRがすぐに駆動方式の主役となった。 一方、FFレイアウトを本格的に量産化したのは、1934年にデビューしたシトロエン「7CV」。一方、日本車で初めてFFを採用したのは、スズキ「スズライト(1955年~)」だった。 その後、長くFR主流の時代が続いたが、FFの弱点だったステアリングの操作性や信頼性が改善され、さらにマイカーブームが到来したことにより、クルマに対する要求が性能重視から居住性など実用性重視へと変化し始めた。 この市場変化を受け、ホンダが「N360(1967年~)」、「シビック(1972年~)」にFFを採用し、FF化で先行。日産自動車が初めてFFを採用したのが「チェリー(1970年~)」であり、トヨタはやや遅れて「コルサ/ターセル(1978年~)」だった。 その後1980年代に入り、「カローラ」や「サニー」、「ブルーバード」など人気の大衆車が次々とFF化され、さらに中・大型乗用車でも採用されるようになり、2000年を迎える頃には主流はFRからFFへと完全に移行した。
個性的なスタイリングで登場したFF車チェリー
1966年の発売以降、トヨタ「カローラ」と日産「サニー」の熾烈な販売合戦はヒートアップ。徐々にボディが大型化し、両車ともワンクラス上のモデルにステップアップした。そこで、日産はサニーが担っていたエントリーモデルとして、新たな大衆FF車チェリーを開発した。 チェリーは、トランクを持ったセミファストバックスタイルで、アイラインウインドウと呼ばれた個性的なウェストラインからCピラーへのラインが特徴で、1971年にはリヤクォーターのロングテールが特徴のクーペも追加。 エンジンは、サニーの1.0L&1.2L直OHVを横置きに変更して流用、トランスミッションは3速&4速MTを用意。注目されたFFレイアウトは、現在では非常に珍しい“イシゴニス式”が採用された。 車両価格は、41万~52.5万円(1.0L)/54.5万~57万円(1.2L)と比較的安価に設定。ちなみに、当時の大卒初任給は3.7万円程度(現在は約23万円)なので、単純計算では1.0Lの最も廉価な仕様で現在の価値では255万円に相当する。 車重を600kg台に抑えた超軽量化ボディに、4輪独立懸架、ステアリングはラック&ピニオンなど最新技術を採用したチェリーの走りは群を抜いており、特に高性能グレードX1(1.2L)は最高速度160km/h、0-400m加速17.3秒と、その走りは1.6Lのスポーツモデルに匹敵した。 特に個性的なスタイリングのクーペは、若者から人気を獲得し、その俊敏な走りはマニアを魅了した。が、一方でFF特有のクセのある操作性がエントリーユーザーにはやや扱い難かった印象を与え、全体として販売は実力ほど伸びなかった。
【関連記事】
- ホンダ初の小型乗用車「ホンダ1300」本田宗一郎氏がこだわったユニークな二重空冷(DDAC)エンジンは何が問題だったのか【歴史に残るクルマと技術036】
- 読み応えアリ! F1日本GPを前に、ホンダがF1のテクノロジーを解説
- 「トヨタ2000GT」富士24時間レースで完全優勝。日本最長レースで圧巻の走りを披露した名車中の名車!【今日は何の日?4月9日】
- 日産・フェアレディZの頂点に立つ最強の「フェアレディZ432」。432は、高性能エンジンの象徴“4バルブ/3キャブ/2カム”の意味【歴史に残るクルマと技術035】
- いすゞ自動車が放った最高傑作「117クーペ」。その美しいスタイルの秘訣とは?【歴史に残るクルマと技術034】