「口説いてはいけない人」を口説く男へ…村上春樹のシンプルな忠告が容赦ない
● なぜ人間にとって 「3」は特別なのか 3度、と言われると、そうだなあと納得してしまうのは何故なんでしょうね。 3は実に力を持った数字だと思いませんか。例えばドラマの撮影シーンで「スタート」の合図を出す場合、5秒前、4、ここまで声に出して言い、3からは指だけで3、2、1と役者さんにスタートを告げる。もしくは3まで声に出して2、1と指で合図を送る。ラジオの本番でもディレクターが、「じゃあ、本番いきまーす。3」まで言って、指で2、1、どうぞと手を差し出したりします。 3には、さあいよいよ、と始まりを感じさせると同時に、スタートまでまだある、という一瞬のゆとりがあり、緊張とゆとりの微妙な狭間にあって精神的バランスをとっている数字なのでは、とも思います。スリー、ツー、ワン、とカウントする場合、フォーからカウントすると、そのバランスが崩れるのがおわかりいただけるのではないでしょうか。 三角形になって初めて空間のある形が作られ、ゆとりが生まれる。この一番小さなゆとり、それ以上だと大きすぎるぎりぎりのゆとりを3という数字は持っているわけです。メダルは金、銀だけでなく、銅まである、というゆとり。三種の神器、日本三景、世界三大○○、2ではなく、3になったときの安定感、収まりのよさは、このゆとりと大いに関係しているように思えます。 3という数字を出されると、きっと私たちは弱いんだと思うんですね。「3か、3ならしょうがないな」と暗黙の了解ができてしまう。小津監督が「夕食をふたりっきりで3度してーー」と言うと、なるほど、と納得してしまうのも、あれこれ考える前に3にやられてしまっているんだと僕は思います。
● 女性を口説く男へ 村上春樹の忠告 ところで暇な折、『村上さんのところ』を取り出して読んでいると――。 読者のさまざまな質問に作家の村上春樹氏が答えるという体裁の本なので、似た質問と答えはないかと探してみたわけですが、「ふたりきりの食事の意味」の項目が目にとまったときは、あった!と急いで文字を追いました。 内容はこうです。 41歳の独身女性が同じ会社のおじさんに、ビーフシチューのお店に行かないか、と誘われご馳走になるのですが、そのおじさんから、ふたりで食事に行くっていうことは気があるって考えていいかと聞かれます。女性が「考えちゃダメに決まってます」と答えると、じゃあ今日はなぜここに来たの?と聞いてくる。 「美味しいものが食べられると思ったから」 彼女の答えは実に率直でした。 そのおじさんとは以前からほかの仲間たちと一緒にご飯を食べに行ったりして、面倒なこともなく楽しい会話ができる相手だと思っていたので、その気軽さから食事の誘いを受けたようです。 それに対して村上氏は、こんなふうに答えています。 僕もときどき一緒にご飯を食べたり、野球を見に行ったりする年下のガールフレンドはいますが、口説いたりしないですね。はっきり分けて考えているから。そういう仕分けができない人は困ります。だいたい口説いていいかどうかは、気配でわかるものです。(村上春樹『村上さんのところ』)