ダニエル太郎が日本男子テニスにもたらした可能性
ただ、デビスカップだけでなくグランドスラムも出場したことがない彼には5セットマッチの経験が一度もなく、ファイナルセットはやはり経験の差が出ただろうか。試合後の会見でこう切り出した。 「こういう大切な試合で、こういう悔しい負けをするのはこれを最後にしたい」 トップ100クラスの選手との対戦は今季1勝2敗で、敗れた試合はいずれもストレートセットだがタイブレークや5-7といったスコアが含まれていた。善戦では意味がないことを痛感しての言葉だったのだろう。 敗れはしたが、ダニエルがこれからデ杯メンバーの重要なオプションになることが証明され、錦織に続くスター性は日本のファンに新たな楽しみを与えてくれた。他の選手たちにも大きな刺激になったし、ダニエル自身にとってもこのタイミングでこうしたプレッシャーを経験したことは重大な意義があった。 「こんなにたくさんの人がいる中で試合をするのも初めてで、こんなにたくさんの人が僕を応援してくれというのも初めてでした。試合前は緊張したけど、コートに入ったら、楽しかったですね」と頼もしい。スタンドからは黄色い声も野太い声もまじった「太郎ちゃーん」の大声援。プレーを生で見て、太郎ファンはまた増えたはずだ。 「ファンが増えてきているのも少しは感じていますね。でも、僕は自分のテニスをやることだけ考えて、できるときだけファンにはありがたく言葉にするとか、そういうチャンスがあったらうれしくやりたいと思う」 あえて彼の言葉そのままに書いたが、ダニエルは日本語よりも英語やスペイン語のほうが得意だということをどうか忘れないでほしい。その表現は独特で素直で、とても愉快だ。初日の記者会見でも、「植田さんは、工夫したアドバイスはあんまり言ってくれないんですけど、サポートしてくれるっていうのは力になります」と話して、笑いが起こったので(あれ、まずいことを言っているかな)というような戸惑いの表情を見せて話し続けるのがまたおかしかった。植田監督もその後、「明日は気のきいたアドバイスができるようにしたい」とそれこそ気のきいたジョークを言って笑わせたのだが、こんなやりとり一つでも、今回暗くなりがちだったチームのムードを変えるために大事なことだったのかもしれない。