「組織」に加え暴発する「個人」も 警視庁公安部が対峙する新たな治安上の脅威
極左暴力集団や右翼のテロ、ゲリラ事案に加え、オウム真理教に代表されるカルト宗教事件、外国の諜報活動…。数々の治安上の脅威に対処してきた警視庁公安部に来春、単独でテロを実行する「ローンオフェンダー」を専従で担当する課が誕生する。対象の情報を徹底的に集めて捜査、未然防止するのが身上の公安部だが、〝人の海〟に埋もれる「個人」の暴発を防ぐのは困難。警察組織を挙げた連携がカギとなりそうだ。 ■極左やカルトを監視 「極左や右翼など組織の動向を把握するのも簡単ではないが、個人となると数が多すぎて、テロの兆候をつかむのは至難の業だ」 ある警察幹部は、ローンオフェンダーへの対応についてこう話す。 警視庁に限らず、日本の公安当局がこれまで対象としてきたのは、一定の組織や、大使館など国家を背景にしている相手がほとんどだ。 昭和30年代から、時に暴徒化する労働運動や学生運動に対処。当時は西側諸国と東側諸国が対立する冷戦時代であり、過激化した極左暴力集団による官公庁などへの襲撃事件やハイジャック事件、壮絶な極左の「内ゲバ」事件など、重大事件が相次いだ。 右翼も要人襲撃や各所でのテロ事件を起こしており、危険な組織の動向把握は欠かせない任務だった。 一方、外国による情報収集活動に対する捜査も公安当局が受け持つ。全国で最大規模の公安警察官を抱える警視庁公安部では現在、大きく分けて主にロシア、北朝鮮、中国、国際テロを注視している。 ロシアは工作員による防衛などの情報収集、北朝鮮は経済制裁をすり抜ける資金獲得、中国は特許情報などを盗み出す産業スパイといったように、それぞれ傾向がある。 国際テロは日本で起こった例は少ないが、イスラム国(IS)やアルカーイダなど、近年では中東のテロ組織に対する日本からの物や資金の流れを解明することも求められている。 ■専従部署で対応強化 こうした組織を相手にする場合、情報を入手し、違法行為の疑いがあれば拠点や関係先の捜索などから次の行動の端緒をつかむことも可能だが、個人にはそういう「脈絡」はない。 公安部が現在、対峙(たいじ)を迫られているのは、極端な主義主張などに基づき銃器や爆発物を用いて要人や重要施設を攻撃する単独のテロ犯=ローンオフェンダーだ。令和4年の安倍晋三元首相銃撃事件や昨年の岸田文雄前首相襲撃事件は、その典型例といえる。