エベレスト登頂史で最大の謎を解く鍵、100年前に消えた登山者の遺体とカメラは見つかるのか
アービンの捜索
マロリーの遺体が発見された後、さらに数回、捜索チームがアービンを探した。ヘムレブ氏は2001年の捜索に参加している。シノット氏も数年前にナショナル ジオグラフィックの捜索チームを率いてエベレストに登り、広大な捜索地域を格子状に分割し、ドローンを飛ばして捜索を行った。しかし、いずれもアービンの痕跡を見つけることはできなかった。 1999年にマロリーの遺体を発見したチームの一員で、2007年にマロリーらと同じ装備でエベレスト登頂をめざすユニークな挑戦をしたことでも知られるコンラッド・アンカー氏は、アービンの遺体が見つからない理由は、おそらく単純に説明できると考えている。マロリーとアービンが滑落したとき、マロリーの体は途中で止まったが、アービンの体はそのまま下にある中央ロンブク氷河まで滑り落ちたというのだ。
カメラの行方
今回アービンの登山靴が発見されたことで、有望な捜索エリアが新たに見えてきた。遺体の残りの部分やカメラが見つかる可能性はあるのだろうか? 登山靴を発見した捜索チームを率いたディレクターで写真家、登山家でもあるジミー・チン氏にとって、カメラを探すことは「聖杯の探索」だ。 「氷河のそこら中に、氷河甌穴(おうけつ、融水のはたらきで氷河にできた深い穴)や深さ数十メートルのクレバスがあります。氷の下にあったカメラが氷河の融解により10年前に表面に出てきて、巨大なクレバスに流れ込んでしまった可能性もあります。そうなったら、さらに200年間は行方不明のままになるでしょう。それでも、見つかる可能性は常にあると私は考えたいのです」とチン氏は言う。 もちろん、専門家はエベレストで100年前に失われたカメラに未露光のフィルムが残っている可能性は低いと考えている。英国ロンドンの王立地理学協会で写真コレクションを管理しているジェイミー・オーウェン氏は、「100年の間凍結と融解を繰り返し、雪崩や氷河の作用にさらされていたカメラから意味のある情報を得られる可能性は、非常に低いと思います」と言う。 ヘムレブ氏も、カメラが見つかっても、復元可能な画像が残っている可能性は限りなく低いことを認めている。それでもなお、衣類ポケットに入っているメモや、酸素ボンベや、遺体に巻き付いたロープなど、当時の状況を解明する手がかりになるものがカメラと一緒に見つかるかもしれないと期待している。 次の捜索チャンスとなる2025年春に追加の遠征が行われるかどうかは、まだわからない。チン氏は、登山靴を発見した正確な場所は公表していないが、以前の捜索で重点的に捜索された場所からは何キロメートルも離れた場所であることは明かしている。 オーウェン氏は、遺体の大まかな位置が判明したからといって、それを回収すべきだということにはならないとクギをさす。「遺体の位置は今後も公表せず、そのまま眠らせておくべきです。さもないと、彼らの探検の記憶が軽んじられてしまうおそれがあるからです」
文=Grayson Schaffer/訳=三枝小夜子