エベレスト登頂史で最大の謎を解く鍵、100年前に消えた登山者の遺体とカメラは見つかるのか
アービンの身に何が起きたのか
マロリーとアービンではマロリーの方が有名だが、捜索チームは常にアービンの遺体に特別な関心を寄せていた。なぜなら、アービンは「ベスト・ポケット・コダック」というカメラを携行していたと考えられていて、そのカメラには山頂で撮影した未現像の写真が残っている可能性があるからだ。 マロリーの遺体が発見された後、専門家たちはアービンの行方についてさまざまな推測を語った。遺体はしばらくの間エベレスト山頂にあったが、雪崩によって下に落ちていったのかもしれない。人の手で移動された可能性もある。 作家で登山家、ナショナル ジオグラフィックの寄稿者でもあるマーク・シノット氏は、2022年の著書『第三の極地 エヴェレスト、その夢と死と謎』(亜紀書房)のあとがきに、匿名の英国外交官から聞いたという説を記している。 それによると、1960年に北東側からエベレストに初登頂した中国人の登山家が、1975年に北東稜でアービンの遺体とベスト・ポケット・コダックを発見したが、自分たちの初登頂の地位を守るために、誰にも報告せずにカメラをどかし、遺体は石の下に埋めたというのだ。 シノット氏は、「この話を誰から聞いたのか、皆さんに教えることができればすぐに納得してもらえると思うのですが、それはできないのです」と言う。 アービンのきょうだいの孫娘で伝記作家でもあるジュリー・サマーズ氏は、この説をまったく受け入れていないと言う。「遺体がどうしても見つからない理由を説明するためのでっちあげだと思いました」 これらの説を詳細に調査して著書『Ghosts on Everest(エベレストの亡霊)』を執筆したヘムレブ氏は、アービンの登山靴が発見されても、これまで考えられてきた多くの可能性が否定されたわけではないと考えている。「ただし、あるチベット人の『アービンの遺体は山から降ろされ、ラサに埋葬されている』という証言は、間違いなく除外できます」