センバツ高校野球 作新学院 最後まで全力 13安打、反撃届かず /栃木
第96回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本野球連盟主催)第5日の22日、作新学院は第1試合で神村学園(鹿児島)と対戦し、3―6で敗れた。序盤からリードされる苦しい展開。相手より多い13安打を放って終盤に1点差まで追い上げる粘りを見せたが、逆転劇にはつながらなかった。志高く全国制覇を掲げ、最後まで諦めず戦った選手たちに、応援席からは惜しみない拍手が送られた。【鴨田玲奈、藤倉聡子】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 4点をリードされた六回、小川亜怜(2年)が相手のミスで出塁、続く広田瑠稀哉(3年)の左前打で無死二、三塁と好機を広げる。大勢の生徒や保護者らで埋まった三塁側アルプススタンドは反撃の予感に沸き立った。続く柳沼翔(2年)がフルカウントから高めの直球を中前にはじき返し、2点を返した。柳沼の母博美さん(51)は「ドキドキした。なかなかチャンスに打てていなかったので安心した。最後まで全力で頑張ってほしい」と目を細めた。 2点を追う七回には土井雄一郎(2年)の中前打、小川亜の右前打で再び打線がつながった。無死一、三塁となって4番・広田が低めのスライダーを捉えて1点を追加した。広田の父文治さん(51)は「一打席目は緊張していたが、段々ほぐれてきたみたい。夢の甲子園で楽しんでやってほしい」と見守った。 だが、反撃はここまでだった。八回は3者凡退を喫するなど、七回途中から登板した神村学園の主戦・今村拓未(3年)を攻略できなかった。 「スコアボードに0を並べる」と意気込んで先発したエース・小川哲平(同)は、一回2死満塁のピンチで相手打者を遊ゴロに打ち取った。四回には、三回に本塁打を浴びた神村学園の4番打者から空振り三振を奪うなど、五回まで落ち着いた投球を見せた。 六回、継投した石毛虹晴(同)は内野安打1本を許したものの後続を打ち取り、七回は3者凡退で抑えた。八回にマウンドに立った斎藤奨真(2年)は2失点したが、スタンドで応援していた作新野球部OBでもある兄祐汰さん(18)は「この悔しさを忘れずに、また甲子園の舞台に立ってほしい」と笑顔でエールを送った。 ナインが肩を落としたまま整列すると、スタンドに集まった約1000人の応援団から大きな拍手が送られた。主将の小森一誠(3年)の母幸枝さん(48)は「やれることは全てやった。夏また戻って来てくれることを楽しみにしている」と目をうるませた。 ◇能登にもエール 珠洲実ユニホーム着用 吹奏楽部 作新学院の吹奏楽部は、今年も石川県立珠洲実業高(同県珠洲市)の吹奏楽部から譲り受けた深紅のユニホームを身に着けて演奏した。珠洲実は2010年に閉校。ユニホームは19年に縁あって作新学院吹奏楽部に寄贈され、昨年11月には作新吹奏楽部が珠洲市で「ユニホームの里帰り演奏会」を行うなど交流を深めてきた。 能登半島の先端に位置する珠洲市は、1月に起きた地震により甚大な被害を受けた。作新吹奏楽部長の宮田心春さん(17)は「野球部はもちろん、能登の人々にもエールを届けたい」と語る。「相手の神村学園も吹奏楽の強豪。私たちも負けられない」との宮田さんの言葉どおり、メンバー58人は熱のこもった演奏を繰り広げた。 05年までの21年間、珠洲実吹奏楽部の顧問を務め、ユニホーム寄贈に尽力した喜多忠男さん(79)は、作新が8強入りした前回大会に続いてアルプス席で応援した。隣接する同県能登町に住む喜多さんは、吹奏楽部の被災地への思いに「ありがたいこと」と感無量の表情。「素晴らしい演奏と共に、ユニホームが輝いている」と目を細めた。 ……………………………………………………………………………………………………… ■ズーム ◇夏見据え、成長誓う 作新学院・小川哲平投手(3年) 1年前のセンバツでは、3回戦でリリーフ登板したものの、わずか10球で交代を告げられた。「もう一度甲子園の舞台に立ちたい」との思いを胸に練習を積み「去年とは違う自分を見せてやろう」とマウンドに上がった。 新チームが始動した時、「自分が後輩を引っ張るんだ」とエースとしての自覚と責任が芽生えた。「あいつのために打ってやりたい」と思われるように、率先して声を出し、一つ一つの行動を早くするなど私生活から意識を高くして過ごすようになった。この冬は短距離のダッシュなど、瞬発力を養うトレーニングを重ね、直球のキレを磨いた。 2度目の甲子園のマウンドとなったこの日は先発し、5回4失点で降板。試合後、「体が横振りになってしまい、直球が抜けてしまった」と反省を口にした。それでも一回裏2死満塁のピンチを無失点で切り抜け、その後も直球やチェンジアップなど緩急をつけた投球で奮闘した。 「練習がまだまだ甘いと感じた。9回全部自分が投げ抜いて、勝利に貢献できる投手になりたい」と夏を見据え、更なる成長を誓った。【鴨田玲奈】