『水ダウ』藤井氏のアマプラ新番組に「麻酔科学会」が激怒、過激化するネット配信は「テレビマン」のユートピアなのか
●ネット炎上ばかり気にして挑戦許されぬテレビ地上波の状況
話を戻して、テレビマンがあえて「物議を醸しそうな"攻めた企画"を配信でやる」理由を考えたい。 まず、今の地上波では、批判が予想される企画は一切通らない現実がある。多くのテレビマンにはそのような状況こそ「地上波をつまらなくしている原因」と感じているし、状況を打破するためには「配信で頑張るしかない」という思いも感じているからだ。 私の話で恐縮だが、ABEMAで「地上波のタブー」と戦った経験がある。 地上波が取り上げないようなテーマや、これまで見なかったニュースの演出方法に挑んだ。部落差別問題や女性の自由な生き方に関するテーマなど、挑戦の一部はそれなりの評価を得た。 こうした挑戦は、自由な発想で「ニュース番組の新しい領域」を開拓し、地上波の企画の「ストライクゾーンを広げたい」との思いからだった。 こうした取り組みは、閉塞したテレビ界に「面白い番組を増やす」ために必要だと信じている。ひいては意見の異なるものに対するSNS上の誹謗中傷が目立つ社会状況・言論状況からも必要だと思っている。 それだけ地上波では何も自由なことはできないのだ。スポンサーや視聴者からのクレーム、ネットでの炎上ばかりを気にして、挑戦がほぼ許されず、「安全な企画」ばかりが放送される。
●テレビ業界が水ダウ藤井氏の「アマプラ上陸」を見守っていた
かつてのテレビ界には、問題を起こした後輩をかばって「一緒に謝ってくれる上司」がいた。現在はあまり期待できない。 多くのテレビマンが「予算も多く自由に作れる」と、NetflixやAmazonプライムなどで番組を作りたいと考えている。配信が「唯一の希望の光」に近い状況とは悲しい現実だ。 そんな不自由な地上波の中で、唯一気を吐いているのがTBSの『水ダウ』だと言っていい。「問題になるかならないか」のギリギリを攻め、若者から高齢者まで多くの視聴者を心底笑わせている稀有な番組だ。 水ダウの藤井さんが「アマプラで番組をやる」となれば、どこまで際どく攻めてくれるかを、テレビ業界の誰もが固唾を飲んで見守っている。 今回の「麻酔ダイイングメッセージ」は実に巧みに「いいところを突いた」と評価できる。 正直なところ、本来であればコンプライアンス的にも、地上波で実現できない企画ではないと思う。だが、いまの地上波で、この企画にOKを出す局はないと言えるだろう。