保護貿易主義の誤り――実は輸入で強くなったアメリカ製造業|週末に読みたい海外メディア記事4本|2024.9.7-9.15
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バイデン米大統領が「阻止」に向けて最終調整中とも伝えられた 日鉄のUSスチール買収 について、直近では判断を大統領選後まで先送りするとも報じられています。完全に政治問題化している格好ですが、それ自体はハリス氏もトランプ氏も、つまり大統領選を戦う両陣営とも米国の中間層へのアピールを念頭に置いていることを考えれば避けがたいところであったでしょう。 そもそもバイデン政権は発足当初から「中間層のための外交」を掲げたものの、その外交によって何がどう「中間層のため」になるのかは判然としないのが実態でした。中間層の苦境は国内の問題(たとえば富の偏在や格差拡大)から来ているのか、あるいはグローバル化に原因を求めるべきなのか。ここへの一つの回答として、バイデン政権は多国間主義への回帰を打ち出しながらも、実態としてはトランプ前政権の導入した保護貿易主義的な関税を維持しました。特に中国からの安価な輸入品が米国製造業を衰退させ、多数の雇用を失ったという認識は両政権に共通するものでした。 しかし、アメリカの雇用維持に保護主義が役立つとの認識は、少なくとも2010年代以降は誤っているとの論考が米「フォーリン・アフェアーズ(FA)」誌に掲載されています。曰く、「それは過ぎ去った時期を想定した“間違った貿易戦争”」とのこと。製造業の強靭化は、結局のところ労働力と技能の開発からの果実でしかあり得ないとの分析は、貿易とは領域がやや異なるものの、日鉄・USスチールの問題にも示唆するものが多いと言えそうです。
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