有元葉子の「14万円のオイルディスペンサー」は、なぜ「100年絶対に変わらない」と言えるのか
「100年使っても大丈夫」
「『100年使っても大丈夫』と言われたのです。これから100年なんてとても生きられないでしょうが、この方が言うならきっとそうなんだ、という信頼がありました」 その言葉に、製作者のとてつもない自信を感じるが、有元さんはなぜあっさりと信じられたのだろうか。 「渡邉さんは、水切りかごを製作いただいて以来、何かとお付き合いの多いササゲ工業さんからのご紹介でした。最初は、ササゲ工業さんが薦めるのなら、という信頼もありましたが、実はご紹介いただく前からご縁があったことが、後々判明したのです」 少し前のことだが、有元さんは、新潟の玉川堂(ぎょくせんどう)と、湯沸(ゆわかし)を作ることがあった。 玉川堂とは、1枚の銅板を鎚で叩き起こす「鎚起銅器」(ついきどうき)と呼ばれる伝統技術を200年以上も継承し、最高品質の銅器で世界中に顧客を持っている老舗企業である。その玉川堂の職人だったのが、渡邉さんだったのだ。 「当時は顔を合わせることもなく、お名前も知りませんでした。けれども、今回やり取りする中で、いろんな場面でずいぶんとしっくり来ることが多く、話してみたら、過去のご縁が判明したというわけです。 ですから初めて、と言っても、湯沸で技術の確かさはよくわかっていますから、とても安心してお任せできたという具合なのです。 ものづくりも、人と人を結ぶものですね」
「素材も技術も文句なし」
ただ、今回のオイルディスペンサーづくりは、有元さんが惚れ込んだ渡邉さんの技術と経験をもっても、1カ月に4,5個しかできないほど大変な仕事だという。「素材も技術も文句なし」と有元さんが言うだけに、お値段が張るのは当然である。 「以前使っていたイタリアの製品は、イタリアらしくカッコいいのですが、置いておくと、いつの間にか油染みができていたりする。でも今回作っていただいたものは、まったくにじまない。液だれも一切なく、周りがべたつくこともありません。使うほどに、このオイルディスペンサーのすごさがわかるんです」 ◇「買ったものは、自分」と、一度手にしたものは最後まで使いきる責任と覚悟を持つ有元葉子さんからの依頼に対し、「100年使っても大丈夫」なオイルディスペンサーを完成させた鍛工舎の渡邉和也さんとは、いったいどんな人物なのだろうか。 後編「『14万円のオイルディスペンサー』の共同製作者が語る、料理家・有元葉子の『こだわりを実現する力』」は、渡邉和也さんのインタビューでお伝えする。
風間 詩織(編集者)