「今年の夏はイソギンチャクで決まり!」 東大落研出身のイソギンチャク研究者が生物の面白さを煮詰めた抱腹絶倒エッセー刊行!
――泉さんのように、「好きなことで生きていく」には、どんなことが必要ですか? 泉 好きなことで生きていくことを目指すと、結果的に好きなことを自転車操業のようにひたすらやらなきゃいけないときが来るんです。博士号を取ったり、研究の業績を出したりするときは、死に物狂いで好きなことをやらなきゃなりません。嫌いになったら終わり。 なので、非常に難しいけど、嫌いにならないようにモチベーションを保ち続けることが大切なんですよね。 ――嫌いにならないためには、どうすればいいのでしょうか。 泉 私は研究の周囲に大量の趣味を付随させてるんですよ。息抜きができれば続くんじゃないかと思ってます。仕事で水族館に行くときも、鉄道で旅したり、うまいもん食ったりするし、YouTubeや講演会でしゃべることも趣味の領域です。 あと、好きなことで生きていくためには、正直、運は避けて通れないです。私はたまたま親が食えない研究分野に飛び込ませてくれた。それが許されない環境だったら無理だったかなと。 あと、周囲から「早く結婚しろ」と言われないのも幸いですね。趣味と研究に全部を注げています。運を逃さないようにしつつ、好きなことを好きなままやり続けることですかね。 ――この本を機に、夏休みにイソギンチャクブームが起きるのでは? 泉 そうですね。それが水族館あたりに波及すれば、お世話になっている水族館業界へのひとつの恩返しになるかなと思います。 ■泉 貴人(いずみ・たかと)1991年生まれ、千葉県船橋市出身。福山大学生命工学部・海洋生物科学科講師、海洋系統分類学研究室主宰。東京大学理学部生物学科在学中に新種のテンプライソギンチャクを命名したことをきっかけに分類学の道へ。2020年、同大大学院理学系研究科博士課程修了。日本学術振興会・特別研究員(琉球大学)を経て2022年より現職。イソギンチャクの新種発見数は日本一。Dr.クラゲさんとしてもYouTube『水族館マスター・クラゲさんラボ』で発信中 ■『なぜテンプライソギンチャクなのか?』晶文社 1870円(税込)エビのテンプラによく似たイソギンチャクが新種であることを特定し、「テンプライソギンチャク」と命名した著者が、こだわりの強かった子供時代から、イソギンチャクとクラゲを専門とする分類学者になるまでをつづったエッセー。知られざるイソギンチャクの魅惑的な世界、研究者の仕事と生態、生物学者を志す人への指南まで。カラー図版も充実。落語調の文体でギャグたっぷりのサービス精神あふれる一冊 取材・文/仲宇佐ゆり