「今年の夏はイソギンチャクで決まり!」 東大落研出身のイソギンチャク研究者が生物の面白さを煮詰めた抱腹絶倒エッセー刊行!
――イソギンチャクには日本にしかいないものが何種類もいるそうですね。世界のイソギンチャク研究から見て、日本の研究はどのような位置づけですか? 泉 私のやっている分類学は西洋で始まった学問ですから、西欧列強とその植民地は生物の調査が進んでたんですけど、当時日本は鎖国していたので、全然調査されていなかったんです。なので、まだまだ新種、新属、新科が出てくるブルーオーシャンなんですよ。 それを私がやっていけば、世界の学者も日本のイソギンチャク研究をもっと認めてくれるんじゃないかな。後輩も出てきて、今、研究者は5人くらいになりました。 ――研究にはいくつものプロセスがありますが、いちばん面白さを感じるのはどこですか? 泉 観察ですね。生き物ならいくらでも見てられます。「いろんな生物がいるな」っていうのが自分の原点なんで、その生物独特の形を見てるのがいちばん好きです。昔は形の違いだけで新種だと言えたんですけど、今はDNA分析もしないといけないんで、しょうがねえからそっちもやってるって感じですね。 ――研究だけではなく、その成果を大学の広報に交渉して世の中に発表したり、YouTubeで発信したりしていますね。 泉 本の中では自分がいちばん優秀みたいに書いてますけど、私より優秀な学者は同世代にもいるんですよ。そういう連中に世間的なイメージで勝つには、バンバンに目立つしかない。研究を世間に広めるところまで含めれば自分がいちばんだって言えるくらいの活動をしようと心がけてるんです。 特に私のやっている分類学は新種が見つかればPRしやすい。それに直接的には人の役に立たない分野だから、いつ働き口がなくなってもおかしくないんで、知名度だけでも稼いでおけば多少は食いつなげるかなとも思ってます。 ――日本で研究を続ける大変さも書かれていました。何を変える必要があるとお考えですか? 泉 今の日本のアカデミアは、研究者が「職も金も時間もない」っていう状態なので、全部変える必要があると思ってます。だいたい、すぐに役に立つ研究ばかり重視されるんですよね。 がんに効く薬を開発している研究者は重用されますけど、その成分が仮にイソギンチャクから取れるとしたら、生物を見分ける学者も重用しねえでどうすんだよって話なんですよ。 お上は基礎研究をやる気がないんじゃないですか? それに抗うために、私みたいな研究者がいることをアピールしてる面もあるんですが、お上まで届くかどうかわかんないですね。