実際に起きた凶悪な事件を基に描く、モンスターシリーズのNetflixのオリジナルドラマ。
『アメリカン・ホラー・ストーリー』『glee』『食べて、祈って、恋をして』など、数々のヒット作を世に送り出してきたライアン・マーフィーが、実際に起きた凶悪な事件を基に描くモンスターシリーズ待望の第2弾が、ついにNetflixにて配信開始。 十数年間で17人もの青少年を殺害し、ミルウォーキーの食人鬼とも呼ばれ、残虐行為を繰り返したジェフリー・ダーマーを描いた『ダーマー』のスタッフが再び集結。今回は、ビバリーヒルズの超高級住宅街で、両親を射殺したとして有罪判決を受けたメネンデス兄弟の物語が描かれている。 1989年、ホセ・メネンデスとキティ・メネンデスがビバリーヒルズの自宅で射殺された。通報したのは兄のライル(当時21歳)と弟のエリック(当時18歳)。二人は映画から戻ったら両親が射殺されていたという。 ホセとキティは至近距離から合計16回も撃たれており、遺体は見分けがつかなくなるほど損傷が激しかった。その残酷さから、当初はエンタメ業界の幹部であるホセに恨みを持つ者がマフィアを雇ったのではないか?とされていた。 しかし、両親が殺害されているにもかかわらず、ポルシェやロレックスなど高級品を買い漁り、身の危険を感じるといい高級ホテルで豪遊。そしてビバリーヒルズの豪邸を売り払い、近郊にハーバービューの豪邸を購入、数カ月で総額70万ドル以上の金を使い込み、やがて警察は「金銭目的では?」と、メネンデス兄弟に疑いの目を向けるようになった。 事件から数カ月が過ぎたころエリックは耐えきれなくなったのか、医者の守秘義務を信じてカウンセラーのオジエルに犯行を告白し、心の安堵を求めた。 オジエルはライルも呼び出し、うまく二人から両親の殺害を自供した会話を録音することに成功したが、こともあろうことかその録音テープの存在をオジエルは愛人に話してしまった。妻といつまでたっても離婚しないオジエルに腹を立てた愛人は、その録音テープの存在を警察に暴露。このことが決定打となり、1990年にメネンデス兄弟は逮捕される。 ホセは、16歳のとき身ひとつでキューバからアメリカへ移住し、皿洗いから大手レコード会社の重役にまで昇り詰め、まさにアメリカンドリームを手に入れた男だ。著名人も多く住むビバリーヒルズの高級住宅街で何不自由なく暮らしていた家族の崩壊は、連日報道され、世間の注目を集めた。そして1993年、遺産目当てで殺害したと主張する検察側と、正当防衛だと主張するメネンデス兄弟の弁護側との裁判が始まり、その法廷の様子はケーブルテレビで放送され、アメリカでの関心はさらに加熱するのだった。 皆が着目したのは、両親を殺害した“理由”だ。努力すれば報われる――。そんなアメリカンドリームを実現した者たちにとって、成功していない者は“努力不足”というレッテルを貼りがちだ。メネンデス兄弟は、長きにわたり父親から性的、身体的、精神的な虐待を受けていたと主張する。 最初は兄ライルから始まり、次はエリック、父親は繰り返し性的な行為を強要し、母はアルコールや薬物に依存し、その行為を見過ごしていたという。裁判ではその主張はある理由があり通らなかったが、果たして本当にそうなのだろうか? というのも、本編でホセがアイドルグループ「MENUDO」(リッキー・マーティンを世に出したことで有名)との契約を結んだシーンが描かれていたが、「MENUDO」と言えば昨年、元メンバーのロイ・ロセロからホセにドラッグをやらされ、レイプされたと告白したのだ。 今もなお性的被害を受けたと主張するメネンデス兄弟、ロイ・ロセロの告白、その証言を踏まえて本編を観ると、また違った視点からとらえることとなるだろう。 果たして本当にメネンデス兄弟は、父親から重圧をかけられ、性的虐待を受けていたのだろうか? それとも、虐待は全くのでっち上げで、遺産目当ての犯行だったのだろうか? 裁判で決着はついたものの、謎が深まるばかり……。さて、あなたはどう読み取る? 『モンスターズ:メネンデス兄弟の物語』はNetflixにて全9話(完結)配信中。 Text:Jun Ayukawa Illustration:Mai Endo
朝日新聞社