「対話を重ねていくから、やっぱり映画の現場が好き」『ぼくのお日さま』若葉竜也が考えた「愛」
第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品された映画『ぼくのお日さま』。吃音のある少年・タクヤは、少女・さくらがフィギュアスケートを練習する姿に心を奪われ、フィギュアスケートをはじめることから物語は動き出します。さくらのコーチで元フィギュアスケート選手の荒川のもと、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習をはじめますが、ある日――。 【画像】奥山大史監督(左)と若葉竜也さん(右)。 登場人物の心模様を、雪の結晶のように繊細で美しく描いた作品。奥山大史監督と、荒川の同性の恋人・五十嵐役を演じた若葉竜也さんに、今作が作られたきっかけや、奥山監督が五十嵐役を若葉さんにお願いした経緯をお聞きしました。
想いをうまく言葉で伝えることができない主人公
――今作は、映画と同じタイトルのハンバート ハンバートが歌う楽曲『ぼくのお日さま』が創作の源となったそうですね。制作のきっかけを教えてください。 奥山 2019年に公開した映画『僕はイエス様が嫌い』の撮影を終えた後、幼い頃から習っていたフィギュアスケートを題材に映画を撮りたいと考えていたのですが、ただ実体験を基に話を形作っても思い出再現ビデオにしかならず、プロットが前に進みませんでした。そんな時にハンバート ハンバートさんの『ぼくのお日さま』を耳にして、惹かれて繰り返し聴くうちに、書きかけのプロットの主人公が、どんどんと歌詞に出てくる少年に吸い寄せられていく感覚がありました。そのまま書き進めてみたら、『これは映画になるぞ』と思えてきたんです。 ――池松さんが演じるコーチ・荒川は、同性の恋人・五十嵐と暮らしています。五十嵐役は、若葉竜也さんにあて書きしたそうですね。 奥山 池松さんに3枚くらいのごく短いプロットを渡したら、「僕、この映画に出ます」とそのタイミングでおっしゃってくださったんです。そして、荒川役を池松さんに演じていただくとなった時に、どなたが恋人としてイメージが湧くか、そして新鮮さもあり観てみたいと思えるか、と考えて真っ先に思い浮かんだのが若葉さんです。 当時、お会いしたことはなかったんですけど、出演作をいくつも拝見していたので、きっと若葉さんなら背景説明の少ないこの役にも、説得力を持たせて台詞を発して下さると思いました。それで、まだオファーもしていない段階で、若葉さんの写真を印刷してパソコンの前に何枚も貼って、声を思い浮かべながら台詞を書き進めました。 ――脚本を書く時はいつもそうするんですか? 奥山 どうでしょう。あて書きすることって、これまではあまり無いんです。『僕はイエス様が嫌い』も、出演者のほとんどが子どもでしたから。子どものキャスティングって「あれに出ていた子、良かったな」って思った時には別人くらい大きくなっているのが常なので、役者を一から探すことから始まるんです。だから、あて書きするというのは、新鮮でしたし、挑戦でもありました。その方がすでに演じた役をトレースするような人物像では、きっと引き受けていただけないですし。