「私の女神、一生の指針。ほんまにほんまにありがとう」尽くして与える「ホスピタリティー」を大切にする理由【坂口涼太郎エッセイ】
そんなおばあちゃんはある日病院に行けば乳がんであることがわかって、しかもがんの転移はもう結構な段階に達してしまっているようだった。 おばあちゃんは「ごめんなさいねえ。もっと早く気づければよかったのにねえ。ごめんねえ」と私たちに何度も何度も「ごめんねえ」と言っていたけれど、なんもごめんじゃないし、だれも悪くないし、おばあちゃん謝らんといて、しんどいのはおばあちゃんなんやから、謝ることなんてないんやよ、と心の中で思ったり、時折言ってみたりした。でも、スーパーホスピタリティーの持ち主であるおばあちゃんは自分がいなくなること、みんなにいろいろと迷惑をかけてしまうことへの申し訳なさみたいものがプライドに反しているのか、ごめんねえ、わるいわねえ、とやっぱり何度も言っていた。 おばあちゃんはその後、副作用のある延命治療よりも残りの時間をできるだけ快適に過ごせるような治療方針で、通院しながらできる限りこれまで通りに自宅で暮らしたり、元気があるときは行きたいところに行ったりして過ごし、診断を受けてから2年半生きてくれた。私たち家族はその2年半の間にちゃんと全身全霊で、思い残すことがなくなることなんて私はあり得ないと思うけれど限りなく思い残すことがなくなるぐらいおばあちゃんに対して、ありがとう、大好きだよ、愛してるよ、今までほんまにほんまに全てのことにありがとう、と伝えた。おいしい料理も食べきれないほど振る舞ってくれて、きれいな服や食器もお小遣いも会うたびくれて、私にもみんなにも与えて与えて与え尽くしているおばあちゃんは私の女神であり一生の指針、理想の人であり、私もおばあちゃんみたいにみんなにそうやって心を尽くしてホスピタリティー全開で生きていきたい。もういいよと言われた5分後に餅を提供するスピリッツで人と関わっていきたい。そのおばあちゃんのスーパーホスピタリティーを受け継いで、その流派を私が生きている限りこの世に残していくよ。ほんまにほんまにありがとう。
坂口 涼太郎