務安空港事故で一家9人全員が犠牲に…飼い主の帰りを待つ犬「プリン」に胸を痛める村民たち /全南・霊光郡
「この家に住んでいた全員が同じ日の同じ時間に…犬だけが取り残されて、どうしたらいいのか…」 【写真】帰ってこない飼い主の帰りを待つ犬「プリン」
12月31日午後に訪れた全羅南道霊光郡のある村はひっそりと静まり返っていた。チェジュ(済州)航空機事故の犠牲者で最高齢者のペさん(78)が住んでいた村だ。 ペさんは2025年に数え年で80歳になるということで、家族とタイ旅行に出かけた。ペさんにとって生まれて初めての海外旅行だった。妻と2人の娘の家族ら9人で一緒に旅行に出発し、一家全員が事故に遭った。 村の入り口にあるペさん宅の前には小さな犬が1匹、切なげに飼い主を待っていた。この村で唯一の子どもだったペさんの孫娘が飼っていた「プリン」だ。 通りかかった村人たちは「プリン」を見ると、近づいてきてなでてやり、「これからどうしたらいいのか…」と途方に暮れた。 ペさんの家の前には長女が運転してきた小型車が駐車されていた。車の後ろには「子どもが乗っています」というステッカーが貼られていた。ペさんの長女は幼稚園に通う娘をこの車で毎日、市内まで送り迎えしていたそうだ。 「プリン」を飼っていたペさんの孫娘は来春、小学校に入学する予定だったという。 村の人々によると、ペさんの孫娘(5)はこの村でたった一人の子どもだったそうだ。活発な性格で人なつっこく、みんなにかわいがられていたという。 村民のペ・フドクさん(77)は「一日中(プリンが)さまよっているので、『私のうちに行こう』と言ったが、家の前までついてきても、また自分の家に帰ってしまう」「誰かが飼ってやれればいいのだけれど」と心配している。 「プリン」は不安そうに村を休むことなく歩き回っていた。行き交う車やバイクなどを見つめたり、公民館に立ち寄って中をのぞき込んだりしている姿も見えた。 この村で生まれ育ったペさんは、里長や営農協会長などを務めるなど、村人たちとの交流が多かったという。面倒なことをいつも引き受けてくれて、信頼も厚かったとのことだ。 80歳に近い年齢にもかかわらず、ペさんは電子機器にも詳しい「新世代」だった。2010年度からは情報化地域に指定された同村で事務長を務め、村民たちにスマートフォンの使い方などを自ら教えていた。 村の人々は「ペさんは農協で監査の仕事も引き受けるなど、『村を支える人材』だった」と口をそろえた。 チェジュ航空機事故が報道されると、ペさん一家が事故機に乗っていたという話があっという間に村の人々の間で広がったという。 話を聞いた70人以上の村民のほとんどが村民会館に集まり、事故の知らせるニュースをかたずをのんで見守ったとのことだ。 村民のハン・サンテさん(70)は「会館で一夜を明かし、『ひょっとしたら』という希望を抱きながらニュースをずっと見ていた」「旅行に出発する前、明るい顔で『行ってくるね』と言っていたのに、こんな形で逝ってしまうとは思わなかった」とため息をついた。 霊光=コ・ユチャン記者