「変動費」と「固定費」から見えてくる、収益性の管理法
森光 高大(明治大学 経営学部 准教授) 近年、日本企業の多くが、材料費や人件費の高騰といった経営上の困難に直面しています。そのなかで、不採算製品からの撤退を判断するには、原価を「変動費」と「固定費」に分解する「固変分解」の理解が重要な役割を果たします。固変分解は、企業の収益性を管理するうえでも重要な概念です。
◇不採算製品からの撤退が、逆に企業全体を赤字にする危険性もある 変動費とは、生産量や販売量などの操業度に比例して増減する原価を意味し、固定費とは操業度に関係なく一定額発生する原価を意味します。 たとえば直接材料費は典型的な変動費で、製品数を2倍に増やそうとすれば、2倍必要になります。生産量に伴い作業時間が増えれば消費される直接工の賃金も増えるため、直接労務費も同様です。つくればつくるだけかかり、生産量を落とせば、その分、安く済むのが変動費にあたります。 それに対して固定費は、過去の意思決定や契約に基づいて、毎月、一定額かかってくるようなものを指します。たとえば工場の建物や設備にかけている火災保険料や、機械の減価償却費などです。これらは生産量を落としたり製造をやめたりしたところで、安くなるわけではありません。また、固定給で雇用されている工場長の給与なども、固定費に含まれます。 何もつくらなければ変動費はゼロとなりますが、固定費が存在するため、結果的に赤字になってしまいます。ここが不採算製品からの撤退を考えるうえで、注意が必要となる部分です。直観的には早々に撤退してしまい、収益性の高い製品のみに注力してしまった方がいいように感じますが、この考え方は必ずしも正しいとは限らないのです。 非常に単純な計算例で考えてみましょう。ある企業がA、B、Cという3種類の製品を製造していると仮定します。それぞれの価格と販売数量は、Aが120円で200個、Bが140円で150個、Cが180円で100個です。製造したものはすべて売れると仮定すると、単純に売上はAが24,000円、Bが21,000円、Cが18,000円となります。損益を把握するためには、この売上を得るのに、どれだけコストがかかったのかを考えなければいけません。 製品1個あたりに直接かかった額がわかるものを直接費と呼びますが、概ね変動費とイコールであり、Aには60円、Bには80円、Cには150円かかったと仮定をします。これに対し、製品1個当たりにかかった額が直接的にはわからないものを間接費と呼び、これは概ね固定費とイコールになります。固定費(ここでは製造間接費と同じと仮定)は工場全体にかかる総額しかわからないため、何らかの基準でA、B、Cに割り当てなくてはいけません。これを「配賦」といいますが、たとえば固定費を22,500円として、製造数量(=販売数量)を基準に配賦すると、200個のAには10,000円、150個のBには7,500円、100個のCには5,000円かかることになります。 これをもとに製品ごとの損益計算書をつくると、売上高から変動費を引いた「貢献利益」から、固定費を引くと「営業利益」が算出されます。すなわちAは2,000円、Bは1,500円の営業利益を出しているのに対して、Cは単価が高いものの収益性は悪く、2,000円の赤字を出し、全体としての営業利益は1,500円となっています。 この場合、不採算なCの製造をやめれば、2,000円の赤字が減るのではと単純に考えると大間違いで、全体が赤字になってしまうのです。なぜなら、赤字となっていてもCは一定額の売上げを出し、固定費の一部を負担してくれていたからです。つまり赤字製品だからという理由だけで撤退すると、残りの固定費をAとBで負担しなければならなくなり、全体としての収益性を下げてしまう危険性があるのです。