「変動費」と「固定費」から見えてくる、収益性の管理法
◇固変分解をするには、その企業のデータを細かく追う必要がある 固定費に分類される減価償却費などは、ある製品から撤退したところで簡単に削減できるわけではありません。変動費と固定費の特性が明確に理解できていないと、全体の業績をさらに悪化させることにもなりかねないのです。 需要があるかどうかの視点も大事です。先ほどの例でも、CをつくらなくなったリソースをAとBに割いたところで、売れずに在庫として残るのであれば意味がありません。そもそもCを100個つくる労力で、AとBを50個ずつつくれるとは限りません。Cに特化していた製造設備があるかもしれませんし、Cの製造のために長く勤めていた人もいるかもしれない。そういう人たちがAとBの作業に移ったところで、同じ労力で同じ個数を製造できるかはわかりません。 変動費と違い、いったん増えた固定費を減らすのは大変です。固定費のなかでも、広告宣伝や研究開発にかかる費用など、比較的短期でも動かしやすいものをマネジド・キャパシティ・コスト、正社員の人件費や購入した工場や産業用機械の減価償却費など、長期間動かせないものをコミテッド・キャパシティ・コストと呼びます。このうち、とくに後者には注意が必要です。正社員として雇用した人員を削減するのも、導入した機械設備や工場などを現金化するのも、苦難を伴う部分が大きいからです。 近年、話題にもなりましたが、日立製作所は、さまざまなメーカーが手がけ、すでに競争が過当気味となっている家庭用エアコンから撤退しました。しかし単純に工場のラインを止めるという話ではなく、事業そのものを売却しています。すなわち固定費ごと、外部の企業に移管させました。コスト構造は企業ごとに大きく異なるため、不採算製品から撤退するかの判断も、方法も、企業ごとに異なっていきます。
◇固定費割合が大きく変動費割合が小さければ、大幅値引きでも増益になることも 固変分解の考え方は、販売戦略を考えるうえでも重要です。たとえば、固定費と変動費に分解すると、いわゆるスケールメリットの意味もよくわかります。生産量が増えれば、製品1個あたりが負担する固定費の額は小さくなっていくので、基本的には大量生産をしたほうが価格を下げて販売しやすくなります。製品1個当たりにかかる変動費に規模は関係ありませんが、固定費は規模によって負担する額が変わってくるのです。 また、臨時注文を引き受けるか否かにも固変分解は関わってきます。もし普段、他社に卸している定価よりも、まとめて買うからかなり安くしてほしいという要求が来た場合はどうでしょう。すでに他社への販売で固定費を含めて損益計算が終わっているような状態であれば、追加注文によって発生するコストは変動費だけなので、変動費より高い値段であれば利益を出せるわけです。 身近な例でいえばラーメンの替え玉がイメージしやすいかもしれません。ラーメンの替え玉の売価が100円だったとして、提供するのに追加でかかるコストは、麺の材料費ぐらいです。替え玉の注文があってもなくても、店員には同じ給料を支払いますし、麺を茹でる釜も、営業中はずっと沸かしています。変動費の麺代だけなので、差額分の利益が出せるのです。 サービス業においても、相対的に固定費の割合が大きく、変動費の割合が小さい場合、とにかく空きを減らすことが重要になってきます。 ホテルであれば総コストに占める変動費の割合は小さいため、空室をつくらないことが大事です。ゴルフ場でも平日と週末では価格が倍ほど違います。固定費は変わらないので、空いている枠を埋めることが重要なのです。映画館の平日割引も、この考え方をもとにしたサービスと言えます。上映するのにかかるコストは決まっているため、値引きをしてでも、なるべく入ってもらえたほうがいいわけです。 固変分解は、商学部や経営学部で教育を受けたような人なら、当たり前のように知っていることではありますが、具体的な意思決定や製品の撤退、収益性の管理といった話になると、さらに理解を深める必要があります。このあたりの仕組みが把握できていなければ、自分のビジネスでどれだけ値引けるのか、撤退するにはどうしたらいいのかも見えてこないため、必要な方々は掘り下げてみてはいかがでしょうか。
森光 高大(明治大学 経営学部 准教授)