ゼルダだけじゃない? 「タイトルの名前≠主人公」から“脱却”した任天堂の作品たち
『ゼルダの伝説』新作の主人公はゼルダ姫! 2024年9月26日発売の『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』の初報当時、「ついにこの時が!」と、古くから『ゼルダの伝説』を知る人は思ったかもしれない。『ゼルダの伝説』と言えば、作品名として冠されたキャラクターとは別のキャラクターが主人公を務めるゲームとして長らく有名、かつネタにされてきたからである。 【画像】タイトルの名前≠主人公な任天堂作品たち それが35年以上の時を経て、ついに本物の『ゼルダの伝説』が誕生したのだ。「ついにこの時が!」と思ってしまうのも自然な話である。 また、『ゼルダの伝説』を販売・開発する任天堂には、ほかにも作品名に冠されたキャラクターとは別のキャラクターが主人公を務めるゲームがいくつか存在する。 しかし、実は近頃、『ゼルダの伝説』以外のキャラクター違いのゲームたちも、作品名通りのキャラクターが主人公を務めるものへと変化しつつある。 ■意外に数がある“主人公とは別のキャラクター”が作品名として冠された任天堂タイトルたち 『ゼルダの伝説』以外で、作品名に冠されたキャラクターとは別のキャラクターが主人公を務める任天堂のゲームには何があるのか。『ゼルダの伝説』を除く、代表的なものをピックアップすると以下の4タイトルだろう。 『ドンキーコング』 1981年発売のアーケード向けアクションゲーム。 タイトルに冠された「ドンキーコング」は、ヒロインの「レディ」(ポリーン)を誘拐した悪役であり、主人公はそんなヒロイン救出のために奮闘する「ジャンプマン」。後に任天堂を代表する世界的スーパースターとなった「マリオ」そのひとである。 続編『ドンキーコング.JR』ではマリオが悪役の側につき、ドンキーコング自身は捕らわれ役として登場。3作目『ドンキーコング3』では再び悪役として登場し、「スタンリー」という名の青年との戦いを演じている。 『メトロイド』 1986年、『ゼルダの伝説』と同じ年に発売された、ファミリーコンピュータディスクシステム向けアクションゲーム。 タイトルに冠された「メトロイド」は、あらゆる生物にとりつき、その生体エネルギーを救出する特殊能力をもつ未知の浮遊生命体を指す。この浮遊生命体を強奪し、生物兵器としての悪用を目論む「宇宙海賊(スペースパイレーツ)」の野望を阻止するというのが主なストーリーで、主人公は銀河指折りのバウンティーハンター「サムス・アラン」が務める。また、メトロイド自身は本編終盤に訪れる「ツーリアン」のエリアで敵として登場。倒すには「アイスビーム」と「ミサイル」が必要となる。 続編『メトロイドII』では、脱皮により進化していく生態系が明らかに。また、後のシリーズに大きな影響を及ぼす幼生メトロイド「ベビーメトロイド」が登場する。 『光神話 パルテナの鏡』 『ゼルダの伝説』『メトロイド』と同じ1986年発売のファミリーコンピュータディスクシステム向けアクションゲーム。 人間に酷い仕打ちを繰り返し、冥府界へと追放された女神「メデューサ」によって征服された「エンジェランド」と、捕らえられた女神「パルテナ」を救出するため、パルテナ軍親衛隊長「ピット」が戦うというストーリー。その内容の通り、タイトルに冠されたパルテナはヒロインに当たるキャラクターで、主人公ではない。 欧州限定で発売(※日本では2012年、ニンテンドー3DSのバーチャルコンソールで配信)された続編『Kid Icarus: Of Myths and Monsters』では、主人公のピットに三種の神器を手にする命を与える上司的な立場でパルテナが登場。2012年発売の『新・光神話 パルテナの鏡』でもほぼ同じ立ち位置で登場している。 『ピクミン』 2002年発売のニンテンドーゲームキューブ向けAIアクションゲーム(※公式表記より)。 未知の惑星に生息する不思議な生き物「ピクミン」の力を借りて、墜落によって大破した宇宙船のパーツ回収に挑むという内容。主人公は墜落した宇宙船のキャプテンである「オリマー」で、ピクミンはそんなオリマーの指示によって動く仲間のような立ち位置となっている。 続編『ピクミン2』以降のシリーズでも、そのポジションは変わらない。ただ、主人公は『ピクミン3』からオリマーとは別のキャラクターに交代している。 このほか、単発タイトルに当たるものとして『ヨッシーのたまご』『ヨッシーのクッキー』『ワリオの森』がある。また、コピーライターの糸井重里氏が原作・シナリオを担当した『MOTHER』シリーズもそのひとつとして挙げられる。 しかし、『MOTHER』はシリーズごとにそのポジションに当たるキャラクターの名称がバラバラで、前述にて挙げた『ゼルダの伝説』などと比べると、特殊なケースと考えざるを得ない感じだ。 もっと特殊なケースでは『マリオ&ルイージRPG3!!!』もある。主人公はタイトルの通り、マリオとルイージだが、それ以上にクッパが主人公として描かれているためだ。 なので、キャラクターの名称がハッキリ出ていることから、代表的な例として挙げられるのは『ドンキーコング』『メトロイド』『光神話 パルテナの鏡』『ピクミン』そして『ゼルダの伝説』の5タイトルといったところだろう。 そんなこれらのタイトルだが、実は2024年現在、作品名に冠されたキャラクターがちゃんとその通り主人公、あるいは看板キャラクターを務める作品が現れる事態になっている。 ……ただひとつを除いて。 ■『ドンキーコング』を皮切りに、タイトル通りの新作が誕生する転機が継続中? まず『ドンキーコング』は、5タイトルの中で一番にタイトル通りの作品が現れた。それが1994年11月26日、スーパーファミコンでドンキーコングが主人公を務める完全新作『スーパードンキーコング』である。 厳密には、この作品で主人公を務めるドンキーコングは2代目で、1981年の初代『ドンキーコング』のドンキーコングとは別のキャラクターだ。件の元祖ドンキーコングは「クランキーコング」という名で登場している。 そのため、少し設定的な複雑さもあるが、結果として本作が誕生して以降、シリーズではドンキーコングが主人公を務める作品が出るようになった。ただ、中にはタイトルに反し、捕らわれ役として登場する『スーパードンキーコング2 ディクシー&ディディー』、『スーパードンキーコング3 謎のクレミス島』のケースもある。 また、従来通りマリオが主人公の『マリオvs.ドンキーコング』というシリーズも後年に誕生。これにより、『ドンキーコング』はタイトル通り主人公を務める作品と、それに反して悪役を務める作品の2つが並行展開されるシリーズへと変化している。 次に『ピクミン』だが、彼らは最新の『ピクミン4』でも主人公たちの冒険をサポートするキャラクターとしての立ち位置を変わらず堅持している。しかし、そんな主人公たちが登場せず、ピクミンたちがクローズアップされるゲームが誕生した。スマートフォンアプリの『ピクミン ブルーム』、そして『みつけてピクミン』だ。 正直なところ、この2タイトルはピクミンたちが主人公というには際どい。どちらかというと、看板キャラクターとして前面に出ている格好だ。しかし、その存在感は本編シリーズ以上で、事実上のタイトルに反しない作品を手に入れたとも言えるだろう。 ちなみに本当の意味で主人公を務めたものでは、映像作品になるが『ピクミンショートムービー』がある。こちらは2024年現在、YouTubeの任天堂公式チャンネルで視聴可能だ。 続く『メトロイド』は、シリーズを遊んだ経験がある人とない人とで大きな認識の開きが生まれる、要注意(かつ入り組んだ)ケースとなっている。転機は2003年、ゲームボーイアドバンス向けに発売された『メトロイド フュージョン』。 この作品のオープニングで、主人公サムスは謎の寄生生命体「X(エックス)」に中枢神経を冒され、瀕死の重傷を負ってしまう。その一命を取り留めるきっかけになったのが、ベビーメトロイドの細胞から作られた「メトロイドワクチン」。メトロイドはXにとっては天敵でもあった。これを投与されたサムスは、体質がメトロイドと同じになり、Xに対抗できる唯一の存在になった。また、本作において「メトロイド」の名称には、シリーズのキーパーソンである「鳥人族」たちの言葉で、「最強の戦士」という意味があるという設定が追加された。 これらの設定が重要な意味を成し、シリーズ最大の決定打となったのが2021年発売の『メトロイド ドレッド』。この作品の出来事を通して、主人公サムスは複数の意味で「メトロイド」と呼ばれる存在になってしまうのだ。 詳しい経緯は『メトロイド ドレッド』本編を確かめてみていただきたいということで割愛する。だが、一連の出来事を体験&直視することで、今後「『メトロイド』の主人公はメトロイド」と言っても、完全に間違いとは断定しにくくなった事実を痛感させられるだろう。 そして今までのように、「『メトロイド』の主人公がメトロイドというのは間違いだよ」と指摘すると、『メトロイド ドレッド』を遊んでいないと自己紹介するも同然になってしまう。『メトロイド』シリーズの用語を用いるならば、「メレーカウンター」を受けることになってしまうのである。 ただし、この設定はこれからの『メトロイド』シリーズの新作で公表される可能性がある。もし、仮に新作が発表され、件の事実が表に出された時に「何があった!?」と気になったのなら、『メトロイド ドレッド』を確かめてみていただきたい。もう『メトロイド』の主人公はメトロイドだと言っても間違いにならない、逆に間違いとツッコむと指摘返しされる時代に移り変わったことを思い知らされるはずだ。 そして『ゼルダの伝説』は、新作『知恵のかりもの』で、ついにタイトルの通りゼルダ姫が主役を務めることになった(ちなみにリンクは、1987年発売の『リンクの冒険』で名を冠した作品を獲得済み)。だが、スピンオフを含めると、すでに『ゼルダ無双』というタイトル通り、ゼルダ姫で無双ができる作品も誕生している。 ただ、本編シリーズにおいては『知恵のかりもの』が初めてとなり、先行した『ゼルダ無双』のことを踏まえれば、満を持してという感じだ。 ■残された作品はあの女神。しかし、残されたがゆえにオイシイ立ち位置になった面も…… そして、ここまでの紹介で、「ただひとつの作品を除いて」が何を指すのかは既に明らかだが、『光神話 パルテナの鏡』である。同作はいまや、作品名に冠されたキャラクターとは別のキャラクターが主人公を務める、数少ない任天堂タイトルになってしまっている。 ちなみに単発の例として挙げた『ヨッシーのたまご』『ヨッシーのクッキー』『ワリオの森』も後年、それぞれタイトル通りの主演作を手に入れている。 また『ワリオの森』の主人公だったキノピオも、2014年に『進め!キノピオ隊長』という主演作が発売。厳密には『ワリオの森』に登場したキノピオではなく、キノピオ隊長という別個体のキノピオの主演作ということになっている。だが、『ワリオの森』で自らの名が冠されなかった経緯を踏まえれば、こちらも満を持してと言えるだろう。 逆に『パルテナの鏡』は、パルテナが主人公を務めるゲームが誕生するに至っていない(単発かつ特殊ケースだが、『マリオ&ルイージRPG3!!!』で事実上の主人公だったクッパもそのような状況である)。 ただし、実は『ピクミン』と同じく、映像作品ではパルテナが主人公を務めたアニメが2012年の『新・光神話 パルテナの鏡』が発売当時に制作、公開されたことがあった。しかし残念ながら、2024年現在は『ピクミン』とは対照的に視聴不能の状況にあり、幻の作品となってしまっている。 そもそも『パルテナの鏡』は、代表例として挙げた5タイトルの中では最もシリーズ展開が少ない。海外専売の続編を含めてもわずか3作だ。また、直近の新作『新・光神話 パルテナの鏡』も、すでに12年前の作品となってしまっている。 その意味では、他のタイトルと変化に差が開いてしまうのも「むべなるかな」といったところである。とはいえ、気合の入ったプロモーションが展開された『新・光神話 パルテナの鏡』の発売当時のことを思うと、あれっきりで終わりはもったいないのではとの思いもある。そもそも、『新・光神話 パルテナの鏡』に関しては、すでに遊ぶハードルも高まってしまっている状況だ。 もともと、『新・光神話 パルテナの鏡』は制作経緯が特殊だったことから、展開しにくい事情もありそうである。しかし、『ゼルダの伝説』に『メトロイド』という、同い年(1986年)生まれのゲームが、作品名通りのキャラクターが主人公を務めるものへと変化してしまった昨今。『パルテナの鏡』もいつか、それに続いてほしいと思うばかりだ。『新・光神話 パルテナの鏡』で、あれほどパルテナのキャラクターが掘り下げられたことを思えば、主役を張れる素質は十分にあるはずだ。実際、映像作品ではなっているうえ、彼女自身も高い戦闘能力を持っていることが『新・光神話 パルテナの鏡』本編や『大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS / Wii U』などでも確認できる。 とはいえ事実上、不一致な作品の代表格になってしまったことを思えば、それもそれでオイシイのだが。 何はともあれ、女神パルテナの明日はどっちだ。
シェループ