意外と多くの企業が陥る「新しさ」の罠…「流行に乗る」ことが強みになるワケ
ふぐ釣り漁船、寺社のサイドビジネス、転売ヤー、ネットワークビジネス――。 これまで経営学が取り上げてこなかった事例を最新の経営理論で読み解く異色の入門書が注目を集めている。会議室の外で生まれる「野生のビジネス」の実態とは? いたるところで二郎系ラーメン店が増え続ける理由も、経営学者から見ると深いワケがあった。 【写真】人生で「成功する人」と「失敗する人」の意外な違い (*本記事は高橋勅徳『アナーキー経営学』(NHK出版)から抜粋・再編集したものです)
差別化は模倣から始まる
「模倣したらオリジナルに勝てないでしょ。独立にあたって大事なことは、差別化していくことだ! ラーメン屋で差別化するためには、徹底的に味にこだわるべきだ!」 そう考える方もいるかもしれません。 しかし、一度流行に乗る=模倣的同型化することで、実は差別化戦略も容易になるとしたらどうでしょうか? 最も単純な方法として、二郎インスパイア系を模倣することで、初めて「ラーメン二郎もしくは二郎インスパイア系が出店していない地域」を狙って出店するという立地戦略が可能になります。いわば、地域内での差別化戦略です。 あるいは、模倣のやり方そのもので差別化することもできますね。客層が若ければより濃厚でボリュームを増やす方向に、客層に中高年や女性が目立つのであれば、よりライトにレシピを洗練させていくことになると思います。時には、過去の修業で身につけた技術に基づいてラーメン二郎を模倣してみて、気づいた問題点を自分なりに改善していく形で、味の面で差別化することもあるはずです。 つまり模倣的同型化=成功例を模倣することで、出店場所からラーメンの味そのものまで、近隣店舗やコピー元のラーメン二郎からどう差別化するかを考えられるのです。 経営学では、新奇性の脆弱さ(liability of newness)として知られる、著名な議論が存在します。多くの企業は、競合他社との競争に勝つために、商品やサービスの内容から、組織構造まで新奇性=イノベーションを求め続けています。実際、私達は「新しさ」を求めることはどこかで正しい、と無自覚に信じてしまっているでしょう。しかし、実際に商品やサービスを購入する消費者や、企業を投資対象とみなす投資家や銀行からすると、新奇性が高い企業=新しすぎる商品やサービスを提供する斬新な企業ほど、購入や投資を見送られることが指摘されています。 同質・同価格のサービスを提供するなら、既存の有名企業から購入したり、投資するほうが合理的です。後発の企業(ベンチャー企業)は、既存企業を超える、新たな価値を提供せねばならないと頑張って、新奇性の高い商品やサービスを開発し、会社そのものも斬新な人事制度を用意して「新しさ」をPRしていきます。ところが、そういう会社は消費者や投資家からしたら、「よくわからない商品を提供する、よくわからない会社」になってしまう。そういう会社を好んで選ぶのは、よほどのモノ好きだけでしょう。 派手に注目を集める、時代を代表するような先進的な企業が、気がつけば倒産してしまったり、どこにでもある会社と変わらなくなるのは、この新奇性の脆弱さを乗り越えることができなかったからです。 まず流行りを真似て、必要な資金と常連さんを確保しつつ、それを基盤に差別化の道を考えていく。そう考えると、臆面もなく流行りを模倣したお店からはじめて、まず生き残ることからはじめる、街のラーメン屋のほうが現実的で、スマートな経営感覚を有しているのではないでしょうか。
高橋 勅徳(東京都立大学大学院経営学研究科准教授)