「核武装は必要だ」日本財界の伝説・葛西敬之に影響を与えた意外過ぎる「人物の名前」
安倍元首相が国士と賞賛した葛西敬之が死の床についた。政界と密接に関わり、国鉄の民営化や最近ではリニア事業の推進など日本のインフラに貢献してきた。また、安倍を初めとする政治家たちと親交を深め、10年以上も中心となって日本を「事実上」動かしてきた。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 本連載では、類まれなる愛国者であった葛西敬之の生涯を振り返り、日本を裏で操ってきたフィクサーの知られざる素顔を『国商』(森功著)から一部抜粋して紹介する。 『国商』連載第6回 『「自衛隊を動員せよ」宇宙開発にこだわった日本財界の黒幕・葛西敬之が官僚と会合を重ねた意外な「場所」』より続く
国益を追求
時事通信出身の外交評論家、田久保忠衛は葛西のことを手放しでほめる。 「葛西さんとの出会いは、もう20年ぐらい前だったかな。産経新聞の紙面検証委員会という社外組織のなかに、葛西さんと私がいて、席を隣にしたりして知り合ったのを覚えています。 葛西さんは(小泉政権の)郵政民営化についても関係していたと思いますけど、そこには私の親友の(政治評論家)屋山太郎君がいてね。葛西さんと屋山君は中曽根さんがやった国鉄民営化のときの突撃隊でした。私も新聞のことはわかりますが、葛西さんは知識の量と質が違う。 普通の人と違っている点は、葛西さんの話が最後に国益に結び付くこと。戦後、財界はもとより政治の世界にも金儲けばかりを考える人たちが多くなってきました。葛西さんは今の財界人にはないタイプでしょう」
ド・ゴール哲学と瀬島龍三
葛西は親米、保守の論客として政府の委員を務めてきた。田久保はそこを認めつつ、こうも語る。 「日本政府の政策は日米同盟が基軸なので、アメリカを裏切ってはいけない。それでいて、葛西さんはフランスのド・ゴール大統領の哲学も持っているわけです。ド・ゴールは米大統領のルーズベルトや英首相のチャーチルといったアングロサクソンがつくった戦後のヤルタ体制に対して不満を持っていた。 IMF(国際通貨基金)も世界銀行も、国連もアングロサクソンの価値観によって打ち立てられた組織、国際秩序であり、ド・ゴールはこれを認めなかったわけです。そして独自の立場から核武装の必要性を主張していきました。フランスはルーズベルトといっしょにソ連に対抗したけれど、核はアメリカに反対されたにもかかわらず持った。葛西さんの口からは、そんな『ド・ゴール哲学』をよく耳にしました。 要するに親米という一般論に、特殊な勉強をした末の議論が加味されている。葛西さんはそれを誰かに教わるわけではなく、書斎で独自に身につけていったんだろうと思います」 葛西の政界における交流について聞くと、田久保は国鉄改革時代の中曽根康弘や中曽根内閣の運輸大臣だった三塚博のほか、元大蔵官僚で財務大臣や国家公安委員長を歴任した自民党の伊吹文明、さらに与謝野馨と安倍晋三の名を挙げた。 葛西が政策面で影響を受けた人物としては、中曽根のブレーンだった瀬島龍三が思い浮かぶという。戦中の陸軍参謀から戦後伊藤忠商事の会長になって中曽根のブレーンとなる瀬島と国鉄改革を成し遂げた葛西の関係について詳細は後述する。田久保はこう言葉を継いだ。 「あんなに理知的な瀬島龍三さんは金丸信と親しかったんです。それから中川一郎のことを総理にしようとしていました。竹下登は総理にしたいと思わなかったけど、なっちゃったというところでしょう。中川と竹下の朝食会を永田町のキャピトル東急ホテルで開いていました。その瀬島さんが90歳を過ぎて動けなくなってきた。葛西さんはその空いた席を埋めたんじゃないかな、と思います。 瀬島さんは中曽根政権ができてすぐ、陸軍士官学校人脈の須之部量三韓国大使に準備させ、アメリカの前に中曽根をソウルに出しました。それでアメリカも日韓が仲良くなったと大歓迎でした。そんな芸当を葛西さんが受け継いでいるんじゃないかな。葛西さんは瀬島さんを非常に尊敬し、中曽根政権時代から瀬島さんに一目置かれてツーカーでした」 左翼陣営に属する国鉄の労働組合と対峙してきた葛西にとって、瀬島は最大の相談相手だった。 『「突貫工事で費用が倍に」...リニアモーター推進の立役者・葛西敬之が立ち向かった「国鉄改革期」のヤバすぎる愚行』へ続く
森 功(ジャーナリスト)