自称・炎上隊長の長友がロシアW杯のキーパーソンとなる理由とは?
コロンビア代表にはファン・ギジェルモ・クアドラード、セネガル代表にはサディオ・マネ、ポーランド代表にはヤクブ・ブワシュチコフスキ……。4-2-3-1が採用されようと、3-4-2-1が採用されようと、彼らを封じ込めることが、左サイドの長友のミッションとなる。 さらに、8日に親善試合で戦うスイス代表も右サイドに強烈なタレントを擁している。右サイドハーフはかつてインテルでチームメイトだった左利きのテクニシャン、ジェルダン・シャキリ。元ユベントスで右サイドバックのシュテファン・リヒトシュタイナーもセリエAでしのぎを削りあった好敵手である。 「地獄だらけなんでね。ただ、自分の中でもこういう厳しい状況の方が燃えるし、今まで何度も『長友はもう厳しいんじゃないか』って言われてきましたけど、そのたびに反骨心を持って這い上がってきた。自分にとっては難しい状況のほうがワクワクするというか、楽しみです」 この4年間を見ても、長友は何度も打ちのめされ、心を折られ、「もう厳しいんじゃないか」と思われる状況に陥ってきた。 世界一を目指すと公言して臨んだブラジル・ワールドカップでは1分2敗の惨敗に終わった。それが長友にどれほど大きなダメージを与えたかは、翌日の会見でうかがえた。「本当に悔しい……」と声をつまらせた長友は報道陣の前で涙を見せた。 所属するインテルでも15-16シーズンにはロベルト・マンチーニ監督の構想から外れ、紅白戦にも出場できず、下部組織の若い選手たちと練習することさえあった。だが、トレーニングに黙々と取り組む姿勢が評価され、シーズン終盤にポジションを取り戻すと、指揮官から「長友は真のプロフェッショナル」との評価を勝ち取るのだ。 今シーズンも出番が減少していたが、冬にトルコに活躍の場を求めると、ガラタサライのリーグ優勝に大きく貢献する。その活躍は「長友がいなければ優勝はなかった」と地元紙に讃えられるほどだった。 5月30日のガーナ戦のあと、長友は瞳に確かな意思を宿し、力強く言った。 「僕もたくさんの経験をさせてもらったので、今は自分自身すごく冷静というか、落ち着いています。ブラジル大会のときは、やってやる、という強い気持ちだけでしたけど、今は本当に強い気持ちと、冷静さもあると感じています。だから、どんな状況でもブレない、自分の中の軸ができたんじゃないかなと。良い状態だと思っています」 今でこそ攻撃的なサイドバックとして名を馳せる長友だが、本来のストロングポイントは守備における1対1の粘り強さにある。2010年南アフリカ・ワールドカップでは長友の守備力を買った岡田武史監督がオランダの左ウイング、アリエン・ロッベンを封じるため、長友を右サイドに回したことがあった。 長友にとって3度目となるワールドカップは、タイトなマーカーとして原点回帰の大会になるかもしれない。 同い年の本田圭佑は「最後のワールドカップになる」と公言しているが、長友はそうしたことを口にしていない。それは、今大会が自身の集大成などではなく、まだまだ自分自身に進化の可能性を感じているからだろう。 左サイドを制することができるかどうか――。日本代表の命運は、長友のパフォーマンスに懸かっていると言っても過言ではない。 (文責・飯尾篤史/スポーツライター)