ドラフト候補の怪物がズラリ…今日開幕!「センバツ2024」甲子園に集う「金の卵」たちの真価
3月18日に開幕する今年のセンバツ(選抜高校野球大会)は、「スター不在」と囁(ささや)かれている。 【怪物がズラリ!】センバツ2024 甲子園に集う「金の卵」たち(写真をみる) たしかに米国・スタンフォード大への進学が決まった佐々木麟太郎(18・花巻東卒)や福岡ソフトバンクにドラフト1位で入団した前田悠伍(18・大阪桐蔭卒)のように、下級生の頃から本塁打を量産したり、三振の山を築いたりしてきた怪物が今年はいない。だが、知名度は高くなくとも、大化けする可能性を秘めた「金の卵」は全国にいる。 たとえば、昨年4月に宮崎県延岡市から全国屈指の名門、大阪桐蔭にやってきた森陽樹(はるき)(新2年)もその一人だ。 「甲子園は小さな頃から憧れていた場所。自分の持ち味を出して躍動したい。プロという目標に一歩でも近づけるように、甲子園で成長できれば……」 U-15侍ジャパン選出歴を持つ球児が幾人も集まる大阪桐蔭には珍しい軟式野球の出身で、一年で身長は3㎝伸びて190㎝に達し、昨秋には直球のMAXが150㎞/hを超えた。甲子園通算67勝の西谷浩一監督(54)は森に対し、「大きく育てたい」とプロに進む教え子への常套句を口にし、背番号は二桁ながらセンバツ切符の懸かった近畿大会では重要な試合の終盤や決勝の先発を託した。大阪桐蔭には他にも右の豪腕が複数揃うが、末恐ろしいこの新2年生こそ事実上のエースである、と近畿の高校野球関係者は誰もが口を揃える。森はこう話す。 「まだまだ体が弱いので、この冬は走り込みやウエイトトレーニングで強化に取り組みました。春になってからまだ球速は測っていませんけど、真っ直ぐの回転数が上がって、強さが出てきた」 変化球もスライダー、カーブに加え、スプリットもこの冬に修得した。 「縦に変化する球種が自分にはこれまでなかった。西谷先生に教わったんですけど、自分なりにしっくりくる握りを模索しました。良い感じで落ちてくれます」 目標は千葉ロッテの佐々木朗希(22)。令和の怪物同様、高校生のうちに160㎞/hを出したい、と森は言う。過去のセンバツにおける最速記録は先輩・藤浪晋太郎(29・メッツ)らが保持する153㎞/h。森がセンバツで新記録を樹立した時、それは新たな怪物伝説の序章となる。 優勝候補と目される大阪桐蔭で4番を打つラマル・ギービン・ラタナヤケ(新3年)はスリランカ出身の両親の間に生まれた右の大砲だ。昨秋の明治神宮大会では逆方向に特大の本塁打を放った。彼の飛距離ならば、センバツから導入される低反発の新基準バットも関係ないかもしれない。打力だけを見れば、今秋のドラフトでもトップクラスの評価だろう。 ただし、三塁の守備と送球に難があり、今年の大阪桐蔭が抱える最大の不安要素ともなっている。西谷監督は我慢して三塁での起用を続けてきたが、センバツ直前の練習試合では一塁を守っていた。ラマルは言う。 「この冬は守備練習に時間を割いてきました。三塁でも一塁でも、しっかり守って自分の役割を果たしたい」 雪国・青森にはすでに聖地のマウンドを2度踏み、誰よりも経験が豊富な左腕がいる。元中日の選手である竜也氏(45)を父に持つ八戸学院光星の洗平比呂(あらいだいひろ)(新3年)だ。その名はあだち充の人気野球漫画『H2』の主人公・国見比呂から付けられたという。彼自身も漫画好きなのだろう、帽子の裏には『ONE PIECE(ワンピース)』の人気キャラであるエースの異名「火拳」の文字が書かれていた。自身もエースとしてチームを牽引するという覚悟の表れだろうか。洗平ははにかんで答えた。 「そうですね。でも試合中、帽子の文字を見たりはしません。それに漫画も、僕は『タッチ』の方が好きです(笑)」 肩甲骨を柔らかく使った投球フォームから、MAX147㎞/hの直球と大小様々な変化球を駆使する。センバツでは開幕試合で東京王者の関東一と対戦することが決まった。 「甲子園は何度来ても緊張すると思う。それに開幕戦は初めて。(開会式後ということで)観客も大勢入ると思うし、それも楽しみながら、投げる活力にしたい」 父のように、プロ野球選手になりたい。 「自分の将来に大きくかかわる大会になる。頭の片隅に進路のことも入れながら、チームが勝てるように頑張りたい」 帽子のツバには「神左腕」の3文字もあった。世代ナンバーワン左腕の称号を得られれば、夢に近づくだろう。 関東一には、洗平が佐倉シニア(千葉)に所属していた中学時代、「全国大会で打たれまくった」という1学年下の坂本慎太郎(新2年)がいる。左投げの外野手である彼は元U-15侍ジャパンの一員で、身長167㎝ながらマウンドにも上がる。米澤貴光監督(48)が話す。 「秋はヒジのケガで投げられませんでしたが、投手としても期待しています。野球センスは誰よりも持っている子です」 昨秋の明治神宮大会で優勝した星稜(石川)の主将である芦硲晃太(あしさここうた)(新3年)も侍のユニフォームを着た過去を持つ。大阪府に生まれ、中学時代は黒川史陽(22・東北楽天)や達孝太(19・北海道日本ハム)を輩出した泉州阪堺ボーイズに所属した。大阪から地方の強豪私立に野球留学するような球児は、新天地でも関西弁を貫くケースも多いが、芦硲のイントネーションはすっかり金沢に馴染んでいるように聴こえた。 「とくに関西弁をやめようとか思っていたわけじゃないですけど……(笑)。あと半年しかない高校野球を全力で、悔いなくやりきりたいです」 能登半島地震の被災県である石川の学校として、センバツは大きな期待と注目を集める大会となる。目指すのは当然、先輩の松井秀喜(49・元巨人ほか)や、奥川恭伸(22・東京ヤクルト)、山瀬慎之介(22・巨人)が果たせなかった甲子園での日本一だ。 「昨年秋こそ神宮大会で日本一になりましたが、夏の甲子園は1回戦負けで、自分たちはまだ甲子園で勝った経験がない。自分はベンチから先輩たちの試合を見守っていましたけど、甲子園の雰囲気に呑まれて、あっという間に時間が過ぎてしまった」 明治神宮大会の準決勝・豊川戦では4安打、6打点を記録した。バットコントロールに長(た)けており、的確なミート技術を持つ芦硲は、飛ばないバット時代の申し子のような球児かもしれない。 「芯でとらえた時の飛距離はそこまで変わらないと思うんですが、ミスショットしたらぜんぜん飛びませんし、前に飛んでも打球速度が遅い。外野の間を抜けたと思うような当たりでも、追いつかれたりしてしまう。より守りが重要になりますし、外野手としては守備の時に気をつけることが多くなると思います」 星稜より震源地に近い輪島から甲子園にやってくるのが、日本航空石川。右の蜂谷逞生(はちやたくま)と左の猶明光絆(ゆうめいこうき)という新2年生が二枚看板だ。千葉県出身の蜂谷はMAX143㎞/hの直球を武器に昨秋の北信越大会でエースの座を奪ったが、中学時代に30校から勧誘を受けたという猶明も、184㎝の長身からシンカーのように落ちるチェンジアップを投じる。日本航空石川は全国からの温かいエールを受けて旋風を巻き起こす可能性を秘めている。 桜が咲き乱れるセンバツ決勝の頃にもなれば、「スター不在」と口にする者はいないだろう。 『FRIDAY』2024年3月29日号より 取材・文:柳川悠二(ノンフィクションライター)
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