レスリングアジア選手権で金メダルを獲得した東京五輪代表の川井梨沙子、友香子姉妹に新型コロナ余波はあったのか?
その妹に姉の試合を見て緊張するのかと聞くと「国際大会では、梨紗子の試合のときはそんなに緊張しない」というと、間髪入れず「うそでしょ!」と姉から抗議をこめたような声が上がった。 「アジア大会で梨紗子が負けたあとの世界選手権だけは、自分もすごく緊張しました。でも最近は、国際大会で緊張することはありません。国内での試合のほうが、すごく緊張します」(友香子) プレーオフとあわせて三度にわたり、伊調馨と日本代表を争った一年前の日々が思い出された。 姉妹で進化の跡を残せたアジア選手権だったが、「中国や北朝鮮の選手と、本当は試合をしたかったので物足りない部分もあった」(梨紗子)というように、同大会は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による影響を大きく受けた大会となった。 新型コロナウィルスが世界各地に拡散しつつあるなか、各国はその防疫に必死だ。今回の流行の発信源となった都市、武漢がある中国湖北省に滞在歴がある外国人の入国制限は日本も行っているが、インドはもっと大がかりで、中国のパスポート所持者と1月15日以降に中国本土を訪れた旅行者の入国を原則として拒否している。そのため、アジア選手権にエントリーしていた中国チームにビザが発給されず、北京経由以外での移動が難しいため参加を断念した北朝鮮とあわせて、女子の強豪国が欠けた大会になった。
不可抗力によるアジア選手権不参加は、3月末に開催の五輪アジア予選と、東京五輪で実施されるシード順位を決定するランキングポイントへも影響をもたらした。 2018年3月に世界レスリング連合(UWW)が公表した2020年東京五輪予選システムでは、五輪出場枠を獲得できる大会は3ステージ。第1ステージは2019年世界選手権で、第2ステージは各大陸予選、第3ステージが世界予選だ。第2ステージの各大陸予選への出場条件として、その年の各大陸選手権へ当該国が出場していることが定められている。もし、その基準を適用するなら、中国も北朝鮮も五輪アジア予選に出場できなくなる。 ところが20日(日本では21日未明)にスイスのUWW本部から、当初のアジア五輪予選開催地である中国の西安からキルギスのビシュケクに開催地が変更されたことと、中国代表が五輪アジア予選に出場できるよう特例として環境を整えることが発表された。中国代表はセルビアのベオグラードで検疫を受け、衛生環境が整った合宿所でトレーニングをして、ベオグラードから直接、キルギスへ移動することとなった。UWWへ問い合わせたところ、今回は不可抗力によってアジア選手権出場を妨げられているので、北朝鮮のアジア予選出場も保証されているとのことだ。 そして、アジア選手権の出場選手が少なくなったことで、日本の五輪内定選手は、ランキングポイントをあまり稼げなかった。東京五輪本番の試合プランへ微妙だが影響が出ることにもなる。 レスリングでは現在、世界選手権や各大陸選手権など、ランキングシリーズに指定された大会での成績に応じて、各選手にランキングポイントが加算されている。ポイントは指定の大会の順位と出場選手数によって加算される仕組みだ。そのランキングをもとに、東京五輪では第1シードから第4シードまでが指定される。 このシード順位を上げておけば、世界チャンピオンなどの強豪選手と1回戦で対戦することを避けやすくなる。もっとも、「強豪選手との試合のタイミングは早いほうがいい」という考え方の選手もいるので誰もがシード順位を上げたいわけではない。 川井姉妹の場合でみると、アジア選手権優勝でランキング1位浮上が確実とみられる姉・梨紗子は、これ以上ポイントを稼ぐ必要はないと判断しているが、現在7位の妹・友香子は、今後について決めかねている。6月にポーランドで予定されている、東京五輪直前まで残されているランキングシリーズ指定の大会へ出場するかどうかは「これから相談して」(友香子)決める予定だという。 (文責・横森綾/フリーライター)