『ライオンの隠れ家』が現代人に問いかけた“共生”の形 “洸人の再生”が最後のピースに
第2話放送後に書いた拙稿「『ライオンの隠れ家』“日常と非日常”描写の秀逸さ バラバラなピースはどう繋がる?」で筆者は、「寅吉(でんでん)が『互助』を、洸人が勤める市役所と美央(齋藤飛鳥)の仕事(子ども支援課)が『公助』を象徴している」と書いた。これに、美路人の自立への第一歩を描くことで「自助」も加わりそうだ。 人は、それぞれが自立することで初めて互いを支え合い、共生できる。ドラマ序盤までの洸人と美路人はいわば、共依存の関係だった。小森兄弟の「共依存から共生への変化」、そして「自助」「互助」「公助」。そこに、このドラマが現代人に投げかける問いがある。 祥吾との共依存の鎖を断ち切り、やっと自立の道を歩みはじめた愛生は、これまでずっと自分とライオンを助けてくれた柚留木(岡山天音)に感謝を伝える。そして、同じくDVの家族に苦しめられた者どうしとして、「あの家にいると思う。だから、気が向いたらふらっと帰っておいでよ」と言葉をかける。柚留木が刑期を終えたときに、帰ってくる場所を作る。愛生による最大の恩返しであり、これも「互助」だ。 洸人・美路人・ライオンの食事のサポートをしたり、緊急時のシッターを買って出たりして支援し続けてきた寅吉も、やがてさらに老いるだろう。そのときはきっと、小森家に暮らす人たちが彼を支えていくに違いない。 高台に立つ「小森家」は、現代社会という名のジャングルで居場所をなくした人たちが、安全に幸せに暮らせるシェルター。まさに「ライオンの隠れ家」となっていくのだろう。少しずつ何かが足りない人たちが集まって、助け合って、寄りかかるのではなく、自立しながら支え合っていく。愛生と祥吾周辺のサスペンスパートで家族の難しさと煩わしさを描きながら、一方でこうした、血のつながりだけでない広義の「家族」に託した希望も提示した。 バラバラだったピースが、第10話までであるべきところに収まりつつある。そして、12月20日に放送される最終回では、最後のピースである「洸人の再生」が描かれる。洸人の本来の欲求、本当の気持ちはどこにあるのだろうか。これまで蓋をしてきた「小説家の夢」は花開くのだろうか。第1話で洸人はライオンを警察に引き渡そうとしたが、ウミネコの鳴き声が聴こえて、咄嗟に「違う景色」を見たくなって走り出した。あのときの衝動のように、最終回で洸人が走り出していく先を見届けたい。
佐野華英