山本昌がセンバツで力投した12投手を解説 中日で一緒にプレーした投手の息子の評価は?
田中遙音(京都外大西/175センチ・67キロ/左投左打) 上背はそれほどなくても、体の反動をうまく使える左投手ですね。テイクバックが少し慌ただしい動作に見えますが、トップで左手がしっかりと上がりきっているので問題ありません。抜けのいいチェンジアップも目を惹きました。ストレートのシュート回転が強くなる高校生が多いなか、田中くんのボールはややスライド回転がかかっています。右打者のインコースへと食い込んでいくメリットもあるでしょうが、今まで以上にボールの勢いを出したければ左肩をより前に出してから投げたいところです。左腕を振る際、左肩を右肩の位置と入れ替えるような形で投げられれば、もっと球質はよくなるはず。今は左肩が前に出てこずに腕を振っているため、ボールを引っかけることが多いのかもしれません。実戦に強い投手として注目されているようですが、まだまだ成長の余地を残しています。
森陽樹(大阪桐蔭2年/189センチ・83キロ/右投左打) ハマった時のボールは段違い。2年生にして全国トップクラスのボールを投げています。残りの高校生活をケガせず順調に過ごせたら、3年時には間違いなくドラフト上位指名候補になるでしょうね。さすがは、毎年プロ注目選手を輩出する大阪桐蔭だなと感じました。軸足での立ち方はいいし、体重移動もスムーズでいい。ボールには角度も球威も感じます。ただし、テイクバックからリリースにかけて右腕が遠回りする使い方で、リリースでタイミングが合わない場面も見られました。これだけのスケールの持ち主なので腕を小さく回す投手にはなってほしくありませんが、テイクバックからリリースにかけて畳み込むような感覚を身につけられれば手のつけられない存在になりそうです。
石垣元気(健大高崎2年/176センチ・71キロ/右投左打) コンパクトで力感のないフォームですが、腕の振りが鋭くてコンスタントに140キロを超えてくるから打者は差し込まれてしまいます。そして何よりもスライダーのキレが抜群。ラインもきれいに出せていてコントロールもいいし、野球センスのある投手なのだろうなと感じました。2年生とはいえ、二本柱を組む佐藤龍月くんとともに高校生では攻略するのは難しい投手でしょう。このまま成長していけば、プロに入ってリリーフとして活躍するイメージが湧いてきます。これから体をつくってスケール感を養成して、ひと回りもふた回りも大きな投手に成長してもらいたいです。 佐藤龍月(健大高崎2年/173センチ・70キロ/左投左打) 石垣くんとともに春のセンバツ優勝へと導いた活躍は見事でした。まず目に留まるのは、強烈なクロスステップ。マウンドから向かって左方向へと右足を踏み出し、対角線に投げ込む角度が特徴的でした。右打者のインコース、左打者のアウトコースへと突き刺さるボールは打ちづらいはずです。2年生にして特殊性を持ち、球速もあるのですから結果を残せるのもうなずけます。クロスステップする分、体をクルッと回して投げるのは大変でしょうが、捕手に向かって伸びていく球質を追求してもらいたいです。 * * * * * 今回12投手の投球をチェックさせてもらい、あらためて実感したことがあります。それは「最近の投手の技術レベルは確実に高くなっている」ということ。技術に関する情報があふれているし、勉強熱心な指導者の方々の力も大きいのでしょうね。逆に言えば、技術に関する知識をつけなければ勝てない時代がきているのだと感じます。 高い技術を身につけられれば故障が少なくなり、練習量を減らすことなく順調に成長できます。私も母校の日大藤沢で臨時コーチをしていますが、今の高校生は短期間に急激に成長して驚かされます。 これから夏にかけて、今回分析させてもらった投手が成長してくれることを願っています。そして、全国には隠れた逸材がたくさんいるはず。新たな好投手と出会えることを楽しみにしています。
菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro