「トランプ大統領」と「刑事コロンボ」に見るアメリカの「反知性」
ドナルド・トランプ氏がアメリカの大統領に就任してから2年あまりがたちました。当初、泡沫候補扱いをされていたトランプ氏を大統領に押し上げる大きな力となったのは、「知的エリート」が多い東海岸や西海岸ではなく、かつて鉄鋼業や自動車産業が盛んだったが衰退してしまったアメリカ中西部の「ラストベルト(さびついた工業地帯)」に住む労働者からの支持でした。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、こうした背景に「反知性の力が働いている」と指摘します。ポピュリズムとあわせて語られることも多い「反知性」という言葉ですが、人間にとってどのような意味を持つものなのでしょうか。若山氏が独自の「文化力学」的な視点から論じます。
知性への敵意
人間は「知性」というものに、敬意を抱きながらも、敵意を抱く動物である。 トランプ大統領 vs 刑事コロンボ。前者は何でも金ピカ、後者はヨレヨレのコート、似ても似つかない、むしろ対照的なこの二人に共通点があるといえばおどろく人も多いだろう。 その鍵は「反知性」だ。トランプ大統領の出現と、刑事コロンボの人気には、アメリカという若く逞(たくま)しい国の「反知性」の力が現れている。そしてそれはアメリカのみならず、今の世界で「ポピュリズム」として批判される極右勢力の台頭について考えるヒントともなるような気がする。 「反知性」は悪として否定されるべきものなのか。それとも人間の必然としてそれなりに考慮されるべきものなのか。 今、地球上に、知性への逆風が吹いている。
トランプの反知性
トランプ大統領はこのところ、マイケル・コーエン元顧問弁護士の訴えによって危機に陥り、それが原因で米朝会談が合意に至らなかったともいわれる。この見方が正しいかどうかは別として、マティス前国防長官を筆頭に、その陣営に離反者が多いのは事実であり、その多くが大統領の知性に疑問を呈しているのだ。 大統領になった当初、日本のマスコミでも同様の傾向は見られたが、ヨーロッパの指導層はより明確に、トランプ氏とその支持者を、欧州各国の極右勢力と同様、あまり知性的ではないポピュリズムの産物と位置づけてきた。 当のアメリカにおいても、民主党支持者とマスコミは同様に批判している。たしかに、オバマ元大統領や、弁護士でもあるヒラリー・クリントン元国務長官、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、CNNなどは、アメリカの「知的エリート」を代表し、トランプ氏が大統領になった背景には、そうした層への不信、すなわち「反知性」の力が働いていたように感じられる。